雪の庭ジパング店の扉が静かに開き、店内の空気が一瞬にして緊張感を帯びた。
入ってきたのは、ジパング王国の女王――壱姫その人であった。
「壱姉様?」
驚きの声を上げたのは雪乃と月だった。
店内のスタッフや客たちもざわめき、すぐさま頭を下げる。
壱姫は堂々と店内に進み、雪乃と月の前で立ち止まる。
「どうなされました、最近は公務が忙しく、店に来ることは叶わないと伺っていましたのに?」
雪乃が問いかけると、壱姫は腕を組みながら答えた。
「例の男の件で妾自ら出向くことにしたのだ。」
「壱姉様ご自身で?」
月が驚いたように問い返す。
「相手は皇帝だ。礼を欠くわけにはいかない。ゆえに、女王たる私自らが向かい、関係の修復のため交渉に行こうというのだ。」
「お考えは理解しましたが、なぜ、ここに?」
雪乃が不思議そうに尋ねる。
「何を言う! 雪乃、月、お前達も同行するのだ!」
「え?」
「ジパングが今回の件に対する懸念が本気であること、そしてわが国の威信を見せつけるために、妾の六人の妹を引き連れて参るのだ!」
「七姉妹全員ということですか!」
雪乃の目が大きく見開かれる。
「その通りだ。」
「となると、随員の規模が大きくなりますが?」
月が少し考え込むように言うと、壱姫は当然のように答えた。
「随員の規模も、わが国の本気と威信と威厳を示すものだ。」
「しかし、転移門では馬車や兵隊を一度に通すことはできませんよ?」
雪乃が疑問を呈する。
「何を言う。妾が自ら出向くのに、歩いていくわけがあるまい!」
壱姫は微笑を浮かべながら言い放つ。
「え?」
不思議そうな表情を浮かべる雪乃と月。
壱姫は堂々とした口調で続けた。
「我が自ら足を運ぶのならば、日本武尊でまいるぞ!」
「ええ? あの巨艦で?」
月の驚きの声が響く。
「空中戦艦で!」
壱姫は誇らしげに告げた。
「しかし、壱姉様、日本武尊がいかに高速能力に優れていると言っても、南蛮帝国までは1週間はかかるのでは?」
雪乃が冷静に指摘する。
「今までならばな。しかし、花が日本武尊に転移機能を装備してくれたのだ! 転移門と同じように、一瞬で移動できるぞ。」
「転移機能まで……?」
雪乃と月は顔を見合わせた。
「花の奴め。忙しいとか抜かしておきながら、転移機能のみならず、艦載機まで完成させよった。相変わらずじゃ! ここだけの話だが、空軍の設立も早まりそうだ。」
「壱姉様……花の『忙しい』はもう枕詞みたいなものです。」
月が苦笑しながら言う。
「全くだ。」
壱姫も軽く笑った。
「話がそれたが、三日後に南蛮帝国へ出向く。準備を怠るでないぞ。」
壱姫の言葉に、雪乃と月は姿勢を正し、静かに頷いた。
こうして、ジパング王国の七姉妹全員が揃い、空中戦艦日本武尊と共に、南蛮帝国への大規模な訪問が決定されたのだった――。