空中戦艦「日本武尊」
南蛮帝国の澄み渡る青空を切り裂くように、巨大な影が悠然と滑る。
ジパングの誇る空中戦艦**「日本武尊」**。
その堂々たる威容が帝都上空に姿を現した瞬間、南蛮帝国の宮廷は緊張に包まれた。
「まさか、空中戦艦まで動かすとは……。」
帝城の塔からその光景を眺めていた側近の一人が、冷や汗を拭いながら呟く。
戦艦から発艦した上陸艇が、帝都中心部にある迎賓館へと着陸する。
そこから降り立ったのは、ジパングの壱姫女王と、彼女に随行する六姉妹の姫たち——雪乃、月、花、夜、忍、弥生であった。
壱姫女王の訪問は、南蛮帝国にとって極めて異例の出来事だった。
通常、国家元首クラスの訪問には事前の外交交渉が行われるものだが、今回は突然の訪問であるにも関わらず、南蛮帝国側は速やかに迎賓館での受け入れ準備を整えた。
それはすなわち——南蛮帝国側も事態の収束を強く望んでいたということを意味していた。
迎賓館にて
迎賓館の広間で、壱姫女王は静かに、しかし力強く告げた。
「両国間の友好関係を脅かす問題を解決し、友好関係を修復したい。」
その視線は、南蛮帝国の皇帝へと真っ直ぐに向けられている。
「……貴国が真に友好関係を維持する意思を持っているのかを確認したい。」
女王の問いかけに、南蛮帝国の皇帝は一瞬言葉を詰まらせた。
だが、すぐに頷き、毅然とした態度で答える。
「もちろんだ。そのためには、いかなる要求にも応じよう。」
壱姫女王は静かに微笑み、軽く頷いた。
「至極真っ当な心構えだ。では、以下の条件を提示する。」
彼女は落ち着いた声で続ける。
1. 公式の謝罪文の提出
南蛮帝国政府として、ジパング王国に対して正式な謝罪を行うこと。
2. 賠償金の支払い
事件によりジパング側に発生した損害に対し、適切な補償を行うこと。
3. 花姫を尾行・監視した男の身柄
この男がジパングの国家機密に関する情報を一切取得していないことが証明されない限り、ジパング国内にて勾留を続ける。
4. 今後、類似の事件が発生しないための対策
南蛮帝国側において、再発防止策を講じることを義務付ける。
「以上の条件を、貴国が誠意を持って受け入れるのであれば、我々は友好関係を維持するつもりだ。」
広間に静寂が落ちる。
南蛮帝国の重臣たちが顔を見合わせる中、皇帝はゆっくりと目を閉じ、短く息をついた。
「……当然の要求だ。」
そう言って、彼は再び壱姫女王を見据え、はっきりと宣言した。
「貴国の要求をすべて受け入れよう。そして、二度とこのような問題が発生しないよう、政府として防止策を講じることを約束する。」
壱姫女王はその言葉を確認すると、静かに微笑んだ。
それは——**「交渉は成立した」**という意思を示す微笑みだった。
帝国の決断と男の処遇
問題となった男は、現在ジパング国内で勾留されている。
彼がどこまで情報を得ていたのか、どこまで危険な存在であるのか——
それを調査するのはジパング側の権限となる。
「……南蛮帝国側に異論はないかしら?」
雪乃が鋭く問いかける。
「もちろんだ。」
皇帝はすぐに頷いた。
「彼の行動が、結果的に両国間の信頼関係を損なう行為であったことは疑いようがない。
彼が仮に何の情報も得ていなかったとしても、その存在自体が貴国の懸念となるのであれば、貴国における適切な処分に任せよう。」
「当然ね。」
壱姫女王は静かに頷く。
「我々は、南蛮帝国との友好関係を望んでいる。しかし、それはお互いの誠意と信頼に基づくものでなければならない。」
皇帝は重く頷いた。
「……ジパングの決意、しかと理解した。貴国の誠意に応えるため、私は自ら南蛮帝国の国民にもこの件を公表し、今後の対策を約束しよう。」
「それで良い。」
壱姫女王は静かに立ち上がり、広間を見渡す。
「今日の交渉により、両国の未来はより強固なものとなるだろう。」