華やかな婚約式が進む中、雪乃はふと、隣に座る花に小さな声で問いかけた。
「ねえ、南蛮帝国にも転移門が欲しいのだけれど、作ってくれないかしら?」
花はジュースを飲みながら、何気ない様子で答える。
「転移門なら、すでにあるでしょう?」
「ええ、でもあれはジパングの転移門でしょう? ジパングの管理下にあるわ。」
「……ふむ。つまり、南蛮帝国の管理下にある転移門を作りたいってこと?」
「ええ、そういうことよ。」
花は、顎に指を当てながら少し考え込む。
「……私は作るのは構わないけど、問題は壱姉様がどう言うかよね。」
雪乃が口を開こうとしたその時――。
「何の話だ?」
低く響く声が背後から聞こえてきた。
振り向けば、そこには堂々たる姿の壱姫女王が立っていた。
彼女は腕を組み、じっと雪乃と花を見下ろしている。
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1. 壱姫女王への説明
雪乃は姿勢を正し、真剣な表情で壱姫女王に説明した。
「南蛮帝国にも、ジパングと同じように転移門を設置できればと思っているの。」
「……ふむ。」
壱姫は、雪乃の言葉を聞きながら顎に手を当てた。
「確かに便利だな。だが、それを作ることで南蛮帝国が転移門の技術を独自に生み出す可能性はあるか?」
「優秀な魔法使いと、優秀な付与魔術師がいれば、時間はかかるけど……不可能ではないと思うよ。」
そう答えたのは、花だった。
壱姫は目を細める。
「……その優秀というのは、どの程度の水準だ?」
「私と同等か、それ以上。」
「そんなやつ、どこにもおらんだろう……」
壱姫は呆れたように肩をすくめた。
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2. 転移門の設置を決定
「いいだろう、雪乃のために転移門を用意させよう。」
「本当に!?」
雪乃は思わず身を乗り出した。
「まあ、結婚祝いということだ。
いつでも実家に帰れるようにな。」
雪乃はその言葉に胸が熱くなった。
壱姫は不器用ながらも、やはり妹のことを思ってくれているのだ。
だが、彼女は続けて重要な条件を付け加えた。
「ただし、有事の際には、こちらから使用不能にできるロック機能を付けさせてもらう。」
「はい、それは当然の配慮だと思います。」
「それと、お前の管理下に置くことが条件だ。」
雪乃は、その条件を聞き、少し驚いた。
「私の……管理下?」
「そうだ。南蛮帝国に転移門を渡すが、ジパング王国としての責任もある。
だから、管理権限をお前に持たせる。お前なら信頼できるしな。」
その言葉に、雪乃は静かに頷いた。
「……ありがとう、壱姫姉様。」
こうして、南蛮帝国にも転移門を設置する計画が正式に決定したのだった。
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3. 未来へ向けて――雪乃の決意
婚約式の場でのこのやりとりは、
雪乃にとってひとつの大きな転機となった。
この婚約がもたらしたものは、単なる国の関係強化だけではない。
自分の立場と責任、そして未来への道を、よりはっきりと意識させるものだった。
――私は、ジパング王国の王族であり、南蛮帝国の皇后となる。
その二つの国を繋ぐ架け橋となるのだ。
そう強く思った雪乃は、アルグリットとの未来をしっかりと見据えるのだった。