1. ジパング王国 王宮警察 留置所
ジパング王国、王宮警察の奥深くにある留置所。
そこには、一人の男が数ヶ月間勾留され続けていた。
彼はかつて南蛮帝国で皇帝アルグリット4世の側近を務めていた侯爵である。
しかし今や、囚人として冷たい石の床に座り込んでいた。
「……なんて愚かなことをしたんだ。」
彼は何度もそう後悔した。
第3王女・雪姫を魔道具で隠し撮りし、第7王女・花姫を尾行した罪。
それが発覚したとき、彼は即座にジパング王国の王宮警察に拘束されたのだった。
以来、幾度も尋問を受けた。
しかし彼には何も語るべき情報はなかった。
「……また尋問か。」
今日もまた、看守が迎えに来た。
彼は観念しながらも、淡々と立ち上がる。
だが、今日の様子はいつもと違っていた。
案内されたのは取調室ではなく、王宮警察の最上階にある応接室だった。
2. 王宮の応接室にて
応接室の扉を開けた瞬間、彼は思わず息を呑んだ。
そこに座っていたのは――
高貴な気品をまとった一人の姫君。
「貴方様は……?」
彼は自らの身なりを整え、丁寧に一礼する。
「第四王女、風姫です。」
「これは、お初にお目にかかります。しかし、風姫殿下が、なぜこのような場に……?」
風姫は落ち着いた表情のまま、彼をじっと見据えた。
「単刀直入に申し上げます。」
「民の血税を使ってまで、貴方をいつまでも留置しておくことはできません。」
3. 恩赦の告知
侯爵は、一瞬驚いた表情を見せた後、静かに頷いた。
「……つまり、処刑ということですね。わかっております。私はそれだけの罪を犯しました。
両国の友好関係を傷つけることとなったのも事実。
ジパング王国がどのような裁きを下そうとも、受け入れる覚悟はできています。」
しかし、風姫は静かに首を横に振る。
「早とちりなさらないでください。」
「……は?」
「あなたは、釈放されます。」
侯爵は耳を疑った。
「……え?」
「貴方への処遇は決まりました。」
「国外追放です。」
「我が姉・第3王女雪姫と南蛮帝国皇帝陛下の婚約が正式に結ばれました。
そのため、今回の件については恩赦が適用されます。」
「ええええ!? そんなことになってたのですか……!」
彼は目を見開いた。
まさか、あのアルグリット4世が政略結婚を受け入れたのか?
「しかし――」
風姫の冷静な声が、彼の動揺を断ち切る。
「国外追放ということは、今後ジパング王国への入国は禁止されます。」
侯爵はしばらく沈黙した後、深く頭を下げた。
「……温情、感謝いたします。」
「ですが、あなたの故国での処遇までは責任を持てません。 そのつもりで。」
「……は?」
侯爵は、今度は困惑の色を見せた。
「……どういう意味でしょう?」
風姫はゆっくりと彼を見つめ、淡々と告げた。
4. 皇帝アルグリット4世の怒り
「アルグリット4世陛下は、貴方を自分の手で八つ裂きにしてやりたいと幾度となくおっしゃってたそうですわ。」
侯爵の顔から血の気が引いた。
「……!」
「貴方が帰国してからのことは、私たちには関知できません。
アルグリット4世陛下がどのように裁かれるかは、貴方自身が受け止めるべきこと。」
侯爵はぎゅっと拳を握る。
「……陛下に断罪されるのは、本望です。」
彼は静かに覚悟を決めたようだった。
「今更、命乞いなどしません。
むしろ、陛下に謝罪する機会を与えてくださり感謝いたします。」
風姫はその言葉に淡々と頷く。
「では、直ちに帰国なさってください。」
最後に、彼女は冷たく言い放った。
「私自身も、あなたを決して快くは思っておりません。さっさと視界から消えてください。」
侯爵は苦笑しながら、一礼する。
「……心得ました。」
こうして、彼はジパング王国から追放され、
アルグリット4世の待つ南蛮帝国へと戻ることとなった。
その先に待つ運命は、彼自身の罪の重さが決めることになるのだ――。