1. 旅立ちの空
ジパング王国の王都、王宮前広場。
そこには、無数の国民たちが集まり、
これから旅立つ姫君の姿を見送ろうとしていた。
空を見上げれば、そこには——
ジパング最新鋭の空中巡洋艦・一番艦「伊邪那美命(いざなみのみこと)」
漆黒に金の装飾が施されたその船体は、
まさに「空を駆ける城」と呼ぶに相応しい威厳を放っている。
「まさか、空中巡洋艦で旅立つとは……!」
「しかも一番艦か……ジパングの威信を示すかのようだ!」
「これが、雪姫様の婚礼の船になるのか……!」
見上げる人々の間には、驚きと誇りが入り混じった声が飛び交っていた。
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2. 船上の姫たち
「……いつの間にか、こんなのができてるし……。」
雪乃の婚約が決まって数カ月、結婚式には完成していたのだ。
巡洋艦の甲板から王都の景色を見下ろしながら、
月はいつものように呆れた声を漏らした。
「この巡洋艦を、雪姉様の結婚祝いに贈ると言ったら、いらないと言われた。」
「当たり前よ!」
即座にツッコむ月。
「せっかく壱姫姉様の許可を取ったのに……。」
「花も壱姫姉様も、どうかしてるわ!!!」
月は半ば叫ぶように言いながら、
隣の花をじっと睨んだ。
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3. 花の悪びれない言葉
「だって、婚礼に相応しい特別な船が必要でしょう?」
「どこが婚礼に相応しいのよ!? これは戦艦じゃない!」
「違うよ。これは巡洋艦だから。」
「そこじゃない!!」
「雪姉様のために、巡洋艦を作る機会を得たのに……断られるなんて、ちょっとショック。」
「……巡洋艦を作る機会を得たって何!?」
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4. 旅立ちの合図
その時——
ドォォォン!!
轟音とともに、伊邪那美命が静かに浮上を始めた。
「いよいよ出発ね……。」
雪乃は、最後に王都を見下ろした。
王宮前広場には、壱姫女王、星姫、そして多くの貴族たちが立ち並び、
その姿をじっと見守っていた。
そして、甲板の端に立つ雪乃は、
深く一礼をして、王都に別れを告げる。
「ありがとう、ジパング……。」
空中巡洋艦・伊邪那美命は、ゆっくりと高度を上げ、
南蛮帝国へ向けて旅立った。
「巡洋艦とはいえ、今回は特別仕様なのよ。」
花が誇らしげに胸を張る。
「……どこが?」
月が怪訝そうに尋ねると、
花は得意げに巡洋艦の内部を指し示した。
そこには——
広々としたロイヤルスイートの客室が整然と並び、
豪華なシャンデリアが煌めく大広間が存在していた。
壁には繊細な細工が施され、
まるで王宮の一室をそのまま移したかのような贅沢な内装。
さらに、廊下には柔らかなカーペットが敷かれ、
乗船している王族や貴族たちの足元を優雅に包んでいた。
「……確かに、思った以上に豪華ね。」
雪乃が思わず感嘆する。
「でしょう? 本来は戦艦仕様だけど、今回は客船としての役割も兼ねてるのよ!」
「王族や貴族の皆様が快適に過ごせるように、特別仕様で作ったの!」
「ふむ……確かに、これなら航海中も快適だな。」
雪乃はため息交じりに頷いた。
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2. 豪華すぎる内部施設
「ねぇ、雪姉様。船内には、温泉もあるよ!」
「は?」
「あと、カフェテリアもあるし、宴会場も完備!」
「……。」
「お茶会だってできるよ!」
「……本当に巡洋艦なの、これ?」
雪乃が呆れたように尋ねると、
花は無邪気に笑った。
「ただの巡洋艦じゃ、つまらないでしょ?」
「……」
「それに、今回の船旅には、王族や貴族の方々も大勢乗ってるし。
ちゃんとした客船としても使えないと、色々不便でしょ?」
「……それはそうだけど……。」
雪乃は納得しつつも、
どこか複雑な表情を浮かべる。
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船内には、ジパング王国の貴族たちも大勢乗り込んでいた。
「おお、なんと素晴らしい設備だ……!」
「まさか、巡洋艦でここまで豪華な空間が作られるとは!」
「雪姫様の門出に相応しい船だな!」
貴族たちは、驚きつつも満足げな表情を浮かべていた。
王族専用のエリアには、
壱姫、星姫、風姫、月、夢姫、花姫がそれぞれの客室を構えている。
風姫は優雅に紅茶を飲みながら、微笑む。
「ふふ、こうして見ると、
これはもう、飛ぶ宮殿と言っても過言ではありませんわね。」
「……花のせいで、どんどんそうなっていく気がする。」
雪乃は呆れながら、
新たな門出を迎えるための船旅に思いを馳せた。
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