「リン、お風呂を作るわよ!」
ユーナが口走った聞き慣れない単語に、リンはますます困惑する。
「お、『お風呂』ですか? それはどんな物なんですか?」
「口で説明するより実際に見た方が早いけど……まず、お湯を二百リットル沸かして、部屋まで持って来れる?」
「少なくとも今日は無理ですよ。かまどの火を、とっくに落としてしまいましたから」
「ダメかあ。じゃあ、今日は
「木の洗濯
「オッケー。私たちが毎日何回も着替えるから、洗濯物の量、すごいでしょ? 洗濯桶の大きさはどれくらい?」
「お嬢様のベッドの半分もないくらいです。深さは三十センチほどでしょうか」
「いいねー。洗濯用の洗剤は?」
「『洗剤』とは?」
「手で洗っても落ちない汚れをどうやって落とすのか、ってことよ。
「暖炉とか、かまどの灰を水に
「あー、
木や
そのうち、灰汁から石鹸も作るか……ユーナは頭の中で、今後の野望に思いを
「それじゃあ今から、私を洗濯小屋に連れてって。他の使用人には内緒よ」
「ええっ!」
ユーナの気迫に押されて、リンは協力を承諾した。
部屋のドアを半開きにしてチョコンと頭を出し、リンは左右を見回す。
「お嬢様、今なら廊下に誰もおりません。急ぎましょう」
リンの後に続いて、ユーナは部屋から這い出した。二人は、音を立てないようソロリソロリと階段を降りて行く。
洗濯小屋に着くと、ユーナは室内を物色し始めた。
「これが洗濯桶で、これが灰汁ね。小屋の中に洗濯専用の井戸が掘ってあるんだ。さすが我が男爵家、悪くないじゃない」
ユーナはリンの方へ向き直った。
「今から、この洗濯桶を軽く洗って、それから水を張るから。リンも手伝って」
「そんな……お嬢様に洗濯なんかさせられません。私が叱られてしまいます」
「いや、服を洗うんじゃないのよ」
ユーナは手押しポンプのレバーを両手で握ると、両足を踏ん張って猛然と上下運動を始めた。
「おりゃーっ!」
「ざっと百リットルってところかな。これは重労働ね」
ユーナは慣れない作業に息を切らして、地面にへたりこんだ。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「うん。ちょうどいい運動になって、体も温まったよ。それじゃあ、入りますか!」
ユーナは部屋着を脱ぎ捨て、一瞬で全裸になった。