「お嬢様⁉　一体何を……？」

　いきなり場違いな場所で裸になったユーナを見て、リンは大いにあわてた。ユーナはそんなリンの様子を特段気にも留めず、洗濯桶の中へ座りこむ。

「ひゃうっ。やっぱり水風呂は冷たいね。リン、灰汁を持ってきて。そこに干してあるタオルも」

　リンが灰汁の入ったバケツとタオルを渡すと、ユーナは灰汁を水で薄め、中にタオルを少し浸ひたした。そして、そのタオルで体じゅうをゴシゴシとこすり始めた。

「すっごい垢あか出てくるー。これだけ大量に出てきたら、逆に笑っちゃうね。リンも服脱いで！」

「ええっ！」

　リンはびっくりして飛びのいた。

「水の中に入るなんてダメです……呪われちゃいます……」

「そういう迷信でみんな風呂に入らないのよね。大丈夫よ、呪いなんてない。私を信じて。体をキレイにして、絶対気持ちよくさせてあげるから！」

「でも……」

　ジリジリと後ずさりするリン。ユーナは、リンのメイド服のリボンにスーッと手を伸ばす。

「正直言うと、あなたも今、すっごく臭いのよね。キレイにしないと、もう、私の身の回りの世話なんてお断りよ？」

「そんなっ……分かりました。じ、自分で脱ぎます……」

　 リンはメイド服を脱ぐと、几帳面きちょうめんに畳んで棚に置いた。

「横においで、リン」

「失礼します……はぁうっ」

　水の冷たさに軽く悲鳴を上げながら、リンはその小さな肩をユーナに寄せた。

「今日は水風呂だけど、本物のお風呂はね、水じゃなくて、肩までお湯に浸かるの。すっごく温かくて、もっともっと気持ちいいのよ？」

「肩までお湯に、ですか……はぁっ……」

　ユーナに優しく肌をこすられて、リンはだんだん頭がぼうっとしてきた。顔や身体からボロボロと垢がこぼれ落ち、やがて地肌が姿を現す。

「あっ、スベスベ……これが、私の本当の肌……」

「浄化魔法では、ここまでキレイにならないでしょ。灰汁は付けすぎないでね。目に入れないように。洗ったらすっごくキレイになったよ、リン。お餅もちみたいに、白くて柔らかい肌ね」

「『お餅』って、何ですか？」

「何でもない。さあ、私も自分の背中は洗いにくいから、リンがゴシゴシして」

　リンに背中を流してもらうと、摩擦の効果か、水風呂なのに全身がポカポカと温かくなる。二人の垢で、洗濯桶の水は野良犬でも洗ったかのように真っ黒になった。

「最後に、髪を洗いましょ。水と灰汁で流してフケを落とすだけでもいいけど、塩を足せば、臭いが取れるし、保湿効果も期待できると思う」

　食事に付いてきた塩とオリーブ油を、ユーナは洗濯小屋まで持ってきていた。手押しポンプでバケツに水を汲み足し、即席の塩シャンプーで髪を洗い合う。

「髪と肌が傷いたまないように、オリーブ油を少しだけ使いましょう。ツヤツヤで可愛くなったよ、リン」

「お、お嬢様も、お美しいです……いえ、普段もすごくお美しいですけどっ」

　その時、洗濯小屋の扉がバタンと開いた。

　ランプを持ったメイドが入ってきて、中の様子にキャッと驚きの叫びを上げた。その背後に立つユーナの継母・クレア夫人は、裸のユーナとリンを見て、小さくフフッと鼻で笑いながら見下すように言った。

「あなたたち……なんて不潔なの⁉」