長い旅路の末、ミライはついに王都アストライアの城門の前にたどり着いた。かつては誇らしげに見上げていた巨大な城壁は、今ではどこか冷たく、威圧的に感じられた。城門に立つ衛兵の数は以前よりも増えており、物々しい雰囲気を醸し出していた。
ミライは深呼吸をし、覚悟を決めて城門をくぐった。王都の街並みは、彼女の記憶の中とは少し違っていた。以前は活気に満ち溢れていた通りは、どこか閑散としており、人々の表情も暗く沈んでいた。店じまいをしている店も多く、以前のような賑わいは感じられなかった。
ミライは、かつて自分が住んでいた神殿へと向かった。神殿は城壁に隣接するように建てられており、王都の象徴の一つでもあった。しかし、神殿に近づくにつれて、ミライの心に違和感が広がっていった。神殿の周りには以前はなかった兵士が配置されており、厳重に警備されているようだった。
神殿の門の前まで来ると、見慣れない衛兵に呼び止められた。
「止まれ!身分を明かせ!」
衛兵は冷たい口調で言った。
「私は…かつてこの神殿にいた者です。」
ミライは答えた。
「名前は?」
「ミライです。」
ミライの名前を聞いた衛兵は、顔色を変えた。
「ミライ…まさか…」
衛兵の様子から、自分のことが王都でどのように噂されているのかを察したミライは、覚悟を決めた。
「そうです。かつて聖女と呼ばれていた、ミライです。」
衛兵たちは顔を見合わせ、警戒するようにミライを取り囲んだ。
「お前が…偽聖女の…」
一人の衛兵が呟いた。
「違います!私は偽者ではありません!」
ミライは必死に訴えたが、衛兵たちは聞く耳を持たなかった。
「黙れ!お前は王国の秩序を乱した罪人だ!大人しく捕らわれろ!」
衛兵たちはミライに武器を向けた。ミライは抵抗するのを諦め、大人しく彼らに捕らわれた。
神殿の中に連行されたミライは、見慣れない場所に連れて行かれた。そこは以前はなかった牢獄のようだった。冷たい石の壁に囲まれた薄暗い部屋に閉じ込められたミライは、深い絶望に襲われた。
「やはり、王都は変わってしまった…」
ミライは呟いた。
牢獄の中で一人、ミライはこれまでのことを振り返っていた。賢者との出会い、修行の日々、そして、王都へ戻る決意。全ては無駄だったのだろうか?
しかし、ミライは諦めなかった。彼女は、真実を明らかにするという強い意志を失っていなかった。そして、自分を陥れた者たちに、償いをさせなければならないという決意も。
牢獄に閉じ込められて数日が経ったある日、牢獄の扉が開かれた。そこに立っていたのは、見覚えのある人物だった。それは、かつてミライの世話役を務めていた、神殿の老女だった。
老女はミライの姿を見ると、目に涙を浮かべた。
「ミライ様…ご無事で…」
「おばば様…!」
ミライは老女の姿を見て、思わず駆け寄った。
「一体、何が起こっているのですか?なぜ私がこんなところに…」
ミライは尋ねた。
老女は悲しそうな顔で、これまでのことを話してくれた。ミライが追放された後、王都では様々な異変が起こっていること。物価の高騰、治安の悪化、そして、王宮内での権力闘争。全ては、ミライがいなくなったことが原因だと噂されていること。
そして、ミライを陥れたリリアンが、今では聖女として王宮で権勢を振るっていること。リリアンは、ミライが起こしていた奇跡を自分の手柄として宣伝し、人々からの支持を集めていること。
ミライは、老女の話を聞いて、深い怒りを覚えた。リリアンが、自分の功績を横取りし、人々を欺いている。許せない。
「おばば様、私をここから出してください。」
ミライは老女に頼んだ。
「ミライ様…それは…」
老女は躊躇した。
「お願いします!私は、真実を明らかにしなければならないのです!」
ミライの強い決意を見た老女は、覚悟を決めた。
「分かりました…私が出来る限りのことをしましょう。」
老女の協力により、ミライはなんとか牢獄から脱出することができた。老女はミライに、今後の身の振り方をいくつか助言してくれた。そして、最後に、ある人物に会うように勧めた。
「その方は、ミライ様のことを信じています。きっと、力になってくれるはずです。」
老女に教えてもらった場所へ向かうミライ。そこで彼女を待っていたのは、意外な人物との再会だった。そして、その再会は、ミライに新たな希望と、真実への手がかりを与えることになるのだった。