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第6話



老女に教えてもらった場所は、王都の裏通りにある小さな酒場だった。表向きは普通の酒場として営業しているが、裏では情報屋や訳ありの人物たちが集まる場所として知られているらしい。ミライは少し緊張しながら、酒場の扉を開けた。


薄暗い店内は、昼間だというのに薄暗く、独特の匂いが充満していた。カウンターには数人の客が座って酒を飲んでおり、隅のテーブルでは何人かの男たちがなにやら話し込んでいた。ミライは奥の静かな席に座り、周囲に注意を払いながら、老女から教えられた合言葉を心の中で繰り返した。


しばらくすると、店の奥から一人の男が現れた。彼はミライの前に座り、低い声で言った。


「合言葉を。」


ミライは少し緊張しながら、老女から教えられた合言葉を伝えた。男はそれを聞くと、わずかに頷き、口を開いた。


「待っていた。お前が来ることを。」


男はそう言うと、自己紹介をした。彼の名前はガイ、かつては王宮に仕えていた騎士だったという。ミライが聖女だった頃、何度か言葉を交わしたことがあったが、親しい間柄ではなかった。


「お前が追放された後、王宮では様々なことが起こった。」


ガイは低い声で話し始めた。


「リリアンが聖女として王宮で権勢を振るっているのは、お前も知っているだろう。だが、彼女の背後には、もっと大きな力が働いている。」


ミライは息を呑んだ。リリアンの背後に、更なる黒幕がいるのだろうか?


「リリアンは、ある貴族と手を組んでいる。その貴族は、王宮内で大きな権力を持っており、リリアンを利用して王宮を操ろうとしている。」


ガイの言葉に、ミライは深い怒りを覚えた。リリアンだけでなく、更なる黒幕が存在し、自分を陥れただけでなく、王宮全体を、そして王国全体を操ろうとしている。


「その貴族の名は…」


ミライが尋ねようとした時、店の扉が開き、数人の男たちが店に入ってきた。彼らは明らかに普通の客ではなく、用心棒のような風貌をしていた。ガイは顔色を変え、ミライに言った。


「話はここまでだ。早くここを離れろ。」


ミライは状況を察し、急いで席を立った。ガイはミライに、ある場所を教えた。


「もし、何か困ったことがあれば、そこへ行け。お前を助けてくれる者がいる。」


ミライはガイに感謝の言葉を述べ、酒場を後にした。外に出ると、先ほどの用心棒のような男たちが、周囲を警戒するように見張っていた。ミライは彼らに気づかれないように、裏道を通り、ガイに教えられた場所へと向かった。


ガイに教えられた場所は、王都の東にある古い屋敷だった。屋敷は古びてはいたが、手入れは行き届いているようだった。ミライが門の前まで来ると、中から一人の老人が出てきた。


「あなたは…?」


ミライが尋ねると、老人は静かに答えた。


「私は、かつてこの屋敷の主人に仕えていた者だ。お嬢様を待っておりました。」


老人はミライを屋敷の中に招き入れた。屋敷の中は、外から見た印象とは異なり、豪華な調度品で飾られていた。老人はミライを応接間に案内し、お茶を用意してくれた。


「お嬢様は、この屋敷の主人のことをご存知でしょうか?」


老人は尋ねた。


「いいえ…存じ上げません。」


ミライは答えた。


「この屋敷の主は、かつて王国に大きな貢献をした人物です。しかし、ある事件をきっかけに、王宮から追放されてしまったのです。」


老人の言葉に、ミライは驚いた。自分と同じように、王宮から追放された人物がいるのだろうか?


「その方は…今どこに?」


ミライが尋ねると、老人は悲しそうな顔で答えた。


「主人は、数年前に亡くなりました。しかし、主人は生前、お嬢様のような境遇の人々を助けるように、私に言い残していたのです。」


老人の話を聞き、ミライは深い感動を覚えた。自分のような境遇の人々を助けるために、亡くなるまで尽力していた人物がいた。


「主人は、お嬢様が必ずここに来ると信じていました。そして、お嬢様にこの手紙を渡すように、私に言い残していたのです。」


老人はそう言うと、ミライに一通の手紙を渡した。手紙には、亡くなった屋敷の主人からのメッセージが書かれていた。その内容は、ミライにとって大きな衝撃を与えるものだった。


手紙には、ミライが追放された事件の真相、そして、リリアンの背後にいる黒幕の正体について、詳しく書かれていたのだ。その黒幕とは、王宮内で大きな権力を持つ、意外な人物だった。


ミライは手紙を読み終え、深い衝撃と同時に、真実への確かな手応えを感じた。ついに、真実にたどり着く手がかりを手に入れたのだ。




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