「“扉”って、まさか」
セオは私の質問には答えず、再び地面の魔法陣を起動させた。
「ローズ様。一緒に、来てくれますね?」
『死よりの者』に関する話なら、私は知っておく必要がある。
まだ疑われてはいないようだが、真実を突き止めないと、そのうち私は『死花事件』の犯人として断罪されてしまう可能性がある。
だって本物のローズは冤罪だったのだ。
それなら何もしていない私が犯人として捕まる可能性も十分にある。
「ええい、もう! 虎穴に入らずんば虎子を得ず、よ!」
私が魔法陣の中に飛び込むと、セオが私を抱き締めた。
「すぐに到着しますので、我慢してくださいね」
宣言通り、セオの腕はすぐに私から離された。
辺りを見回すと、葉の生い茂る木々が生えている。
どうやら森の中への転移が成功したようだ。
「自分のことを信じてくださってありがとうございました」
「まだ完全に信じたわけではないですが。それで、私に会ってほしい人というのは誰なんですか」
「会ってほしい人ではありません。会ってほしい者です」
「どう違う……」
≪ “扉”と会いたかったのは、我です。 ≫
私が言い終わる前に、面会相手が判明した。
目の前に大きな鷲を思わせる『死よりの者』が現れたからだ。
「えっ!? あ、えっと、セオさんは大丈夫ですか!?」
横を見ると、『死よりの者』が目の前にいるにもかかわらず、セオは平然としている。
「もしかしてセオさんの動物と心を通わせることが出来る特技は『死よりの者』にも有効なんですか!? セオさんも『死よりの者』と話が通じるんですか!?」
「どうしてその特技を?」
「あー、ええと、何となくそう感じたと言いますか……ほら、馬もウサギも、セオさんに懐いていたので。動物に好かれる人なのかなーって……思っただけです」
まさか原作ゲームをプレイしたから知っているとも言えず、それらしいことを言ってお茶を濁した。
セオは私の言葉に納得した様子で、質問の答えをくれた。
「自分には彼の言葉は分かりません。しかし……『セオも』ということは、ローズ様は『死よりの者』の言葉が分かるのですね」
「あっ、それは……」
失言だった。
これでは私が『死よりの者』を操ったと言われてしまう……言われるだろうか。
というか、今のこれは一体どういう状況なのだろう。
「そもそも、どうして『死よりの者』がここにいるんですか」
「彼に『“扉”であるローズ・ナミュリーに会いたい』と文字を書いて説明されまして」
「『死よりの者』って文字が書けるんですか!?」
私のこの質問には、セオではなく『死よりの者』が答えてくれた。
≪ 書けます。大抵は文字を書いて見せる前に人間を殺すか、そうでなければ逃げられてしまうので、あまり知られてはいませんが。 ≫
それはそうだ。普通の人なら『死よりの者』を見た瞬間に逃げてしまう。
それに『死よりの者』側も、人間を殺そうとしてくる。
学園の清掃員や、旧校舎に入った生徒にそうしたように。
「……って、あれ。どうしてセオさんは殺されないんですか? やっぱり動物と心を通わせられるからですか?」
先程も思ったが、ローズ以外に対しては容赦のない『死よりの者』なのに、セオは何もされていない。
「いいえ。自分の能力は関係ありません。彼が曾祖母の恩人であり、自分の実家で暮らしているからです」
「実家で暮らしているって……『死よりの者』が、ですか?」
「はい。それもあって、曾祖母が日本人だったことを隠しているのです。家を探られると困りますからね」
すごい話になってきた。
まさか攻略対象の中に『死よりの者』と暮らしている人がいたなんて。
「うん? 恩人ということは、もしかして彼がセオさんのひいおばあさんを日本から脱出させたという……」
≪ そうです。彼らの一族とは長い付き合いです。 ≫
「そうだったの。あなたはずいぶんと長生き……という表現は違うかしら。ずいぶんと長い間、この世界にいるのね」
≪ 我は我自身だけではなく、同胞すべてを救いたいのです。そのためにこの世界に留まって、方法を探しているのです。 ≫
仲間想いの『死よりの者』もいたものだ。
町で出会った『死よりの者』はかなり子どもっぽかったが、落ち着いた様子の彼となら深い話が出来そうだ。
「聞きたいことがたくさんあるの。山ほどね」
≪ 出来る限りお答えしましょう。“扉”が我らについて知ることが、我らを救うことになると信じていますから。 ≫