「まず、どうして私は『死よりの者』と話せるの?」
≪ 確認ですが、昨年までの“扉”は、我々と話すことが出来ませんでした。そうですよね? ≫
「え、ええ。そうね」
夢に出てきた本物のローズは、『死よりの者』と話すことは出来ないようだった。
それなのにどうして私は話すことが出来るのかが疑問だった。
≪ これは憶測ですが、“扉”は二度目に我々の世界へ来た際に、我々の世界の浸食度が進んだのでしょう。 ≫
「浸食度って何?」
≪ 我々の世界にいると、姿形が世界に適したものへと変わっていくのです。一度目に来た際に、“扉”は髪が黒くなっていました。二度目に来た際には、爪が黒くなっていました。 ≫
ハッとして自身の爪を見た。
前におかしいと思ったことはあった。原作ゲームのローズはこんな色の爪をしてはいなかったから。
≪ しかし二度目の浸食が、爪の色が変わるだけとは考えづらいです。もっと浸食が進むはずです。きっと“扉”が我々の言葉が分かるようになったのは、二度目の訪問によって浸食度が進んだからだと思います。 ≫
「あなたたちの世界って、何なの? 私はどうやってその世界に行ったの?」
≪ 該当者が死ぬと、該当者の魂は輪廻転生せずに我々の世界へと飛ばされます。あなた様は該当者であり、死んだことで我々の世界へとやって来ました。 ≫
「私は二度死んだ……ということ?」
本物のローズは、幼い頃に木から落ちて重症になったと言っていた。
もしかするとその際に、一度死んでいた?
≪ 本来ならあなた様も我らと同じ『死よりの者』になるはずでした。しかしあなた様は“扉”の能力を開花させたのです。そして我々の世界とこちらの世界を繋ぐ扉を出現させ、その扉から出て行きました。 ≫
辻褄は合う。
では二度目の死とは……?
ここまで考えたところで、気付いた。
ローズが死ぬような魔法を使っていたことに。
夢でローズは、特大魔法を三つ使ったと言っていた。
『別世界に干渉する魔法』と『魂を入れ替える魔法』と『過去に戻る魔法』という三つの特大魔法。
『私』の世界に干渉して、ローズの魂と『私』の魂を入れ替えて、『私』の魂を過去に飛ばす。
魔力を使い切ったローズの身体は死んでしまうが、特大魔法が成功していれば、『私』がローズとして過去に戻るから問題は無い。
しかし、想定外のことが起こっていたとしたら?
特大魔法の三重掛けは、前代未聞の試みらしい。
それなら、想定外のことが起こっても不思議ではない。
たとえば。
三つの特大魔法を使用したことでローズの身体が死んでしまったが、魔法が発動するまでにタイムラグが起こっていたとしたら?
魔法が発動する前に死んだ本物のローズは、一度『死よりの者』の世界に飛ばされてしまう。
そして『死よりの者』の世界にいる間に、『過去に戻る魔法』が発動。
“扉”の力で本物のローズがこちらの世界に戻ってきたところで、『別世界に干渉する魔法』と『魂を入れ替える魔法』が発動した。
ここで別世界の『私』がローズの中に入った。
入れ替わる前のローズが一度死に『死よりの者』の世界に飛ばされたことなど知りもしないで。
≪ 二度目に我々の世界へ来たあなた様は、慌てた様子ですぐに扉を出現させて去りました。 ≫
「……辻褄が、合ってしまうわね」