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第78話


 次の質問をぶつけようとしたとき、軽く肩を叩かれた。


「ローズ様。そろそろ帰りましょう」


「もうですか? まだまだ聞きたいことがあるのですが」


「もともと今日は顔合わせだけのつもりでした。“扉”であるローズ様が信頼できそうな人物か、直接会って自分の目で判断したいとのことでして……」


 セオが『死よりの者』を手で示しながら言った。

 どうやら私は品定めをされていたらしい。

 そうとは知らず、短時間で質問攻めをしてしまった。

 鬱陶しい奴だと思われただろうか。


「私はあなたのお眼鏡に適った? また会ってくれるかしら」


 私に問われた『死よりの者』は、翼を大きく広げて丸を作った。


≪ あなた様の真実を知ろうとする姿勢は、信じるに値します。次に会った際にはもっと話をしましょう。“扉”が事態を把握することは、我らを救うことにも繋がるかもしれませんから。 ≫


「会うなり質問攻めにしたのに、評価してくれてありがとう」


 『死よりの者』の様子を見たセオは、満足げに頷いていた。


「彼に気に入られたみたいですね。さすがはローズ様です」


「さすがって……私は普段、愛されキャラではないですよ。嫌われたり怖がられたりすることの方が多いです」


 私が人心掌握に長けていると勘違いしているセオに、現実を告げた。

 ジェーンやナッシュなど一部の生徒からは好かれているものの、クラスの大半は、私のことを嫌っているか怖がっている。その両方の人が最も多い。


「あの拗らせ王子の婚約者を続けている人が何を言いますか。あの王子に何年も執着されるなんて、すごいことですよ? 自分なら絶対にごめんですが」


 またセオが、自分は王子の側近だ、と言っているような発言をした。

 口を滑らせやすい性格なのかもしれない。


「自国の王子に対して『拗らせ王子』なんて言ったら、不敬罪で捕まっちゃいますよ?」


「あっ……だ、大丈夫です。ローズ様さえ黙っていて下されば問題ありません。黙っていてくれますよね?」


「それは構いませんが、気を付けてくださいね」


「恩に着ます」


 私は『死よりの者』に向き直ると、深々と頭を下げた。


「いろいろと教えてくれてありがとう。それと最後にもう一つだけ。あなたはどうして“扉”である瀬尾梅子さんを日本から脱出させてあげたの? あなたたちからしたら、“聖女”と“扉”は近くに置いておきたいんじゃないの?」


≪ “聖女”も“扉”も、我らの救世主です。脅すことなど許されるわけがありません。ですが当時は、人間を人質にして“聖女”に浄化をさせようとする勢力が強すぎました。そしてあの勢力をあのまま放っておいたら、次は“扉”が脅される番だと思ったのです。だから我は“聖女”に注目が行っている間に、“扉”を日本から遠ざけることにしました。 ≫


「……あなたたちも一枚岩ではなかったということね」


≪ 我らは人間とは違って個人の情報を共有できますが、そもそも我らも元は人間です。個体による考え方の違いは当然あります。あの世界に長くいると、似たような思想になりがちではありますがね。 ≫


 もう一度『死よりの者』にお辞儀をしてから、私たちは転送魔法でウサギ小屋に帰った。

 こっそり女子寮に戻り、鍵を開けた状態にしていたジェーンの部屋の窓を開けると、部屋の中ではジェーンが勉強をしながら私の帰りを待っていた。


 『死よりの者』に聞きたいことはまだまだあったが、あのまま会話を続けなくて良かった。

 寝ていていいと言ったものの、あのジェーンが私の帰りを待たずに寝るはずがなかった。

 私が無事に帰宅したことで、ジェーンも安心して寝られるはずだ。


 今夜の出来事は教えられないため、眠気が限界と言いながら、そそくさと部屋を出て行った。

 だって今夜の出来事を伝えたら、ジェーンは私の帰りが遅いこととはまた別の心配をして、眠れない夜を過ごしてしまうから。


 ごめんね、ジェーン。

 話せる段階になったら、きっと話すからね。




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