ナッシュとともに町へ出向いた私は、ミゲルがアジトにしている洞窟へと向かった。
「お嬢様。どんどん町の中心部から離れていきますが、一体どちらへ向かわれているのですか?」
「探し人のいる場所へ、よ」
とはいえ、ミゲルがアジトにいるかは分からない。
町へ稼ぎに出ている可能性もある。
しかし町を歩きながらミゲルを探したものの、町の中ではミゲルを見つけることが出来なかったから、アジトにいる可能性は高いと思う。
ミゲルがアジトにしている洞窟に到着した私は、そっと洞窟内を覗いてみた。
すると洞窟の中には少年が一人しかいなかった。
残念ながらミゲルは稼ぎに出ている最中で、私がミゲルの姿を見落としただけのようだった。
ミゲルは観光客と一緒にどこかの店の中にいたのかもしれない。
それにミゲルは複数人で暮らしていたはずだが、他の子どもたちも稼ぎに出ていて留守のようだった。
「こんにちは。私たちは怪しい者ではないのだけれど、ちょっといいかしら」
少年を怖がらせないように、出来る限り優しく聞こえるように声をかけた。
しかし当然ながら、いきなりアジトにやってきた私たちを見た少年は、警戒心をむき出しにした。
近くにあった石を抱えて武器にしようとしている。それともあれは盾にしているのだろうか。
「誰ですか!? 一言目に『怪しい者ではない』と言うなんて、怪しいですね!?」
しまった。
警戒心を解くつもりの言葉が、少年を余計に警戒させてしまったようだ。
「私はミゲルの知り合いなのだけれど、ミゲルはいつ頃戻ってくるかしら」
少年はどう返答すべきか迷っているらしい。
私たちが本当にミゲルの知り合いなのかを疑っているようだ。
「ミゲルはここには住んでいませんけど、僕の知り合いではあります。ミゲルに何の用ですか?」
嘘を吐いたということは、少年は私たちのことを怪しい者だと認識したのだろう。
もしかすると私たちがミゲルに危害を加える気だと思っているのかもしれない。
「ミゲルにお願いしたいことがあるの。それも急ぎで」
「……ミゲルが何かしたんですか? あなたの物を壊したとか、お金を盗んだとか」
なるほど。
少年は、私たちがミゲルに復讐をするためにここに来たと思っているらしい。
「違うわ。以前ミゲルには町を案内してもらった縁で知り合って……どうしても彼に頼みたいことがあるの。彼にしか頼めないことよ」
「一応聞いておきますが、ミゲルに何を頼みたいんですか」
少年は私の目的に薄々気づいているのだろうが、私の口から詳細が聞きたいようだ。
「実はお母様が倒れたの。だからミゲルには治療魔法を頼みたくて……」
「……その話はどこから聞いたんですか」
「話というか、前に治療をしてもらったの。ミゲル本人に」
「…………」
少年は値踏みするように、私のことを上から下まで眺めた。
ついでに無言で私の横に立っているナッシュのことも同じく値踏みした。
「あなたたちは身なりが良くて、どこかの御貴族様のように見えますが、ミゲルをどうするつもりですか」
「どうもしないわ。お母様の治療をしてもらいたいだけよ」
「……帰ってください。待っていても、ここにミゲルは来ません」
少年はそれっきり、私と会話をしてくれなかった。
どうやら私は彼の信頼を勝ち取ることが出来なかったようだ。
だからと言って、ここで下手に物をあげても怪しさが増すだけだろう。
どうするべきだろうか。
「お嬢様。目的の相手はここには来ないとのことですが……」
「いいえ、来るわ。だってここは彼の家だもの」
言い切った私を見て、少年は困ったように頭をかいた。
そして持っていた石を振り上げた。
帰らないなら実力行使も辞さないという意思表示だろう。
しかし細すぎる彼は、大きな石を振り上げただけでふらついている。
そもそも彼一人で、私たち二人を相手にすることは難しい。
「お嬢様、どうされますか」
「絶対に手は出さないで。二度と信頼を得られなくなるわ」
ナッシュと私は、石を構えた少年を前にして、杖も剣も構えずに、ただその場に立っていることにした。