数十分歩き、ルナヴィア川に着いた。アヤメさんによると、ルナヴィア川は夏になると川の上を月が通るように見えるそうだ。まるで月が川という道を歩くように。ここもまた夏の夜になるとカップルであふれるそうだ。
休みの日ではないが、ちらほら男女がいる。
「夜のルナヴィア川もいいけど、日中のルナヴィア川もきれいだよ。ここは水が綺麗でも有名な所だからね。」
「そうなんですか。アヤメさんはここによく来るんですか?」
「そうだね。嫌なことがあった時はよくここに来てたね。」
「川の音を聞きながら瞑想すると、本当に心がクリアになるんだよ。そして、夏になるとアユが取れるんだ。アユは塩で焼くとめっちゃおいしいよ。」
「僕もアユ食べてみたいです。アユ食べたことないので。」
「ほら、もうアユ売ってるみたいだね。そうだ、今日食べればいいじゃない? せっかくだし、一緒に食べようよ。」
アユを焼いたいい匂いがしてきてた。さっきお腹いっぱいになったのに、まるでアユがデザートで、デザートは別腹かのようにお腹が空いてきた。
「ちょっと歩いたし、もう食べられるんじゃない?」
「はい! 食べましょう!」
そうして、俺たちは店の前に行き、塩焼きのアユを買って食べた。
「おいしいね。どう? おいしくない?」
「いえ、おいしすぎて夢中になって食べてました。」
「本当に可愛いね。私の弟を思い出すよ。」
「思い出す? アヤメさん、弟がいるんですか?」
「昔いたんだけどね。魔物にやられちゃったんだ。少しヴェス君に似てたんだよ。」
「そうなんですか。じゃあ、美形だったんですね。」
「まぁね…って、それって自分で自分のこと美形って言ってるのと同じやないかい!」
「すみません。アヤメさんが元気なさそうだったんで…。」
「ありがとうね。ヴェス君、私はそういうところも好きだよ。すごい人を思いやれるところが。まぁ、弟に似てるって言ったけど、私は君を一人の男性として見てるから覚悟してね。」
「は、はい!!」
「ちょっと暗くなってきたね。ついでにルナヴィア川の月を見て帰ろっか。」
「そうですね。」
この世界のアユは前世のアユより断然うまかった。川が綺麗だからだろうか…。
「それにしてもアユ美味しかったですね。この味が夏しか食べられないのは悲しい。」
「でも、それもまたいいんじゃない? 夏しか食べられないからこそ夏が楽しみになるし、夏の風を感じながら『今年も夏になったなぁ』ってアユを食べるのがいいんだよ!」
「確かにそうですね! 1年中食べられたら少し飽きそうですよね。」
「そう、そういうことだよ。」
「あ、月が見えてきたよ。」
「川の水の流れる音を聞きながら、川の上に映る月を見るのはいいもんですね。」
本当にきれいだった。ここに好きな人と来られたらどんなにいいんだろうかと考えた。その前に、俺に好きな人と本当に来られるのだろうかと思った。前世では好きな人と出かけたことがなかったので…。
「でしょ! ヴェス君も彼女ができたら、ここにまた来るといいよ。もしかしたら、私が彼女になってるかもしれないけどね。」
「僕も今日だけじゃなく、また来たいです!」
「そうだね。またお姉ちゃんとかと来なよ。それとも、私とまた来たいのかな?」
「えーと…。」
「いいよいいよ。急に連れ出しちゃったもんね。ごめんね。でも、またお出かけしてくれたら嬉しいな。ぜひ、色々な人と出会って色々な経験をして素晴らしい男性になってね。今のヴェス君も素晴らしい男性だけどね。」
「最初はいきなり連れてこられて戸惑ったけど、今日は本当に楽しかったです。」
「嬉しいこと言ってくれるねー。お姉さん、君のこと本当に好きになっちゃうよ?」
「それならそれでいいですよ!」
「ヴェス君からお許しをもらったことだし、また誘っちゃおうかなー。」
「は、はい!」
こうして俺たちは家に帰った。帰りながら、俺は女性とのデートは本当にいいものだと思い、セレナちゃんともデートしたいなと思った。そして、1日が終わった。