公爵令嬢フレイヤは、スキル持ちである。
冒険者ギルドのあるこの世界では、魔法を使える者は少なくない。
貴族や王族もその例から漏れることはなく、特にボルケーノ公爵家は優秀なスキルを持つ者が出ることで有名だった。
フレイヤが王太子の婚約者に選ばれたのは、生まれ持った魔力量が多く、特殊なスキルを持っていることも大きな理由のひとつだ。
彼女は、魔物から魔核をもぎ取ったり、体が爆散するほどの魔力を放出した者を力ごと封じ込めたり、結果が『ご無体』と言われるほどの極端なことをすることができる。
なお微調整はできない。
そのためスキルを使うことには危険が伴うので滅多に使わないが、いざというときには国王を守ることができる。
魔力量の多さは体力と、スキルの強さは知力と結びついているため、フレイヤは王妃として適した人材だ。
マリウスの暴走でそれが叶わなくなった時、国民はみな残念がった。
そした他国は喜んだ。
「わたしの妻になってくれませんか? フレイヤ嬢」
「お断りします、ユーリーさま」
受付台の前に座ったフレイヤは、穏やかに金髪碧眼美形の他国の王子へ向かって告げた。
「貴女のおかげでわたしの命は救われたのです。この命、貴女を幸せにするために使わせていただけませんか?」
「間に合っています」
冒険者が座るべき場所に座る美貌の王子は、結果としてフレイヤが救った人物だ。
ルビーの弟で、カイロス商会の副会長であるバロールは、ユーリーと面談する予定があった。
表向きは商談ということになっていたが、バロールは真実を見通すことができる魔眼を持っていて、ユーリーを暗殺しようとしている一派をあぶりだすために引っ張りだされていたのだ。
バロールに真実を見通されては困る一派は、彼の暗殺を試みた。
魔核による爆殺を選んだのは、あわよくばユーリーごと始末してしまおうという思惑からだったようだ。
結果的には、バロールの働きによりユーリー暗殺を企てた一派は一掃された。
その感謝の印としてフレイヤに結婚を申しむ者は、ユーリー以外にもいた。
「なら俺のところへ嫁に来ないか?」
「だから間に合っています」
バロールがユーリーを押し退けるようにしてフレイヤの前に座り、彼女の手袋をはめた手を握る。
すると後ろに控えていた執事が一歩前に出て、パロールの指を丁寧に一本一本外すとその手を受付台の上に置き、再び後ろへと下がった。