クロエの導きで、ナヴィアはグランツ王国の玉座の間に足を踏み入れた。広々とした石造りの部屋は、威厳に満ちた装飾が施され、厳格な空気に包まれていた。玉座には、屈強な身体と鋭い眼差しを持つグランツ王が座っている。その視線がナヴィアに向けられると、彼女の小さな体は一瞬緊張で硬直した。
「ナヴィア、落ち着いて。」
クロエがそっと彼女の肩に手を置いて励ます。
ナヴィアは大きく息を吸い込み、まっすぐに玉座の王を見つめた。
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ナヴィアの訴え
グランツ王は静かに口を開いた。
「ナヴィア殿下、遠路はるばるよく来られた。クロエから話を聞いているが、今日は何の要件で我が国を訪れたのだ?」
その問いに、ナヴィアは一瞬言葉を探したが、すぐに気持ちを落ち着けて話し始めた。
「グランツ王陛下、今日は……お父様、帝国の皇帝を助けるためにお願いがあります。」
ナヴィアの声は幼いながらも真剣だった。その言葉に、王は少しだけ興味を示したように眉を動かした。
「皇帝陛下を助けるためとは……詳しく話してくれ。」
ナヴィアは一歩前に出て、小さな拳を握りしめながら続けた。
「お父様は今、病気で動けない状態です。でも、宰相さんがその隙に帝国を好き勝手に動かしていて……お父様を助けるどころか、危ない目に遭わせているんです!」
「その宰相とやら、皇帝陛下に危害を加えるつもりだというのか?」
グランツ王の声には鋭い疑念が込められていた。
「はい、そうです!だから、わたしはお父様を助けるために、周りの国々の力を借りたいんです!」
ナヴィアは全力で訴えた。その真剣さに、王の表情は少し柔らかくなった。
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クロエの援護
ナヴィアの言葉が終わると、クロエが口を開いた。
「父上、ナヴィアの話は真実です。私も宰相ダリウスの噂を聞いています。彼は帝国の未来を考えるどころか、自分の利益のために国を壊そうとしている。」
クロエの言葉には力強さがあり、その信頼性は王に強く響いていた。
「さらに、ナヴィアはただ助けを求めるだけではありません。4カ国の同盟を提案し、協力して宰相を追い詰める計画を持っています。」
「4カ国同盟だと?」
グランツ王は興味深げに眉を上げた。
「はい。各国が4方向から進軍し、帝国内で皇帝派が反乱を起こすタイミングで一斉に宰相派を包囲します。」
クロエが簡潔に説明すると、王は再びナヴィアに目を向けた。
「この計画を本当に考えたのは、そなたなのか?」
「はい!わたしが考えました!」
ナヴィアの答えははっきりしていた。その目には、彼女の決意がはっきりと宿っていた。
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グランツ王の試す言葉
グランツ王はしばらく考え込むように顎に手を当てた。やがて口を開き、少し冷静な声で言った。
「その計画は興味深い。だが、一国の王として軽々しく他国の争いに加わるわけにはいかぬ。我が国にとって、どのような利益があるのかを示してくれ。」
その言葉に、ナヴィアは一瞬言葉を失いかけたが、すぐに気を取り直して答えた。
「グランツ王国が力を貸してくれれば……帝国とグランツ王国の関係がもっと強くなります!それに、お父様が元気になったら、グランツ王国に感謝して、もっとたくさんの協力をすると思います!」
幼いながらも真剣な言葉に、王の目に少しだけ微笑みが浮かんだ。
「なるほど。そなたの言葉はまっすぐで誠実だ。だが、現実の政治はそれほど甘いものではない。」
ナヴィアがさらに何かを言おうとしたその時、クロエが口を挟んだ。
「父上、ナヴィアが言っているのは、単なる願いではありません。帝国が宰相によって壊されれば、次に被害を受けるのは周辺諸国です。それを未然に防ぐために、今動くべきです。」
「……ふむ。」
グランツ王は再び考え込んだ。
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承諾の瞬間
やがて、グランツ王は大きく息を吐き、ナヴィアに視線を戻した。
「ナヴィア殿下、その幼い身でここまでの決意を持って行動しているのは感服に値する。よかろう。我がグランツ王国もその同盟に加わろう。」
「本当ですか!?」
ナヴィアは目を輝かせ、思わず前に飛び出した。
「ただし、条件がある。」
王は続けた。
「帝国が正しく再建されること、そしてグランツ王国の兵士に不利益がないように配慮することだ。その責任をそなたが負う覚悟があるなら、協力しよう。」
ナヴィアは一瞬だけためらったが、すぐに小さな拳を握りしめて答えた。
「はい!わたしが責任を取ります!」
その力強い答えに、王は満足げに頷いた。
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次への布石
ナヴィアとクロエが王のもとを辞してから、クロエが静かに口を開いた。
「ナヴィア、よく頑張ったわね。父上を説得するのは簡単なことではないのに、あなたの言葉が彼の心を動かしたのよ。」
「ありがとう、お姉様!でも、これからもっと頑張らなきゃ!」
ナヴィアは新たな決意を胸に、次の行動に移る準備を始めるのだった。