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第7話

 翌朝――ギルドカウンター裏。

 サマンサは、いつものように“依頼掲示板に出す用”の紙束を整理していた。

 だがその手は、どこか躊躇していた。

(……惜しかったのよね、ブリーフマン。能力だけなら、魔王軍の中でも上位だったもの)

 思わず、手元の“故・ブリーフマン追悼ファイル”に視線を落とす。

 ファイル表紙には、彼の直筆スローガンが印刷されていた。

《“ホワイトな軍隊に、白ブリーフで!”》

「ダメよサマンサ、しんみりしてたら始まらない。次のターゲットはもう届いてるんだから……」

 気を取り直して、彼女は今週分の“処理対象モンスターリスト”に目を通す。

【候補A】:叫ぶだけでガラスが割れる“ソプラノ・リッチ”

 →長音で建材が崩壊。幹部会議のたびに部屋が全壊。

【候補B】:自己完結型の召喚獣“ぼっちフェニックス”

 →死んで蘇るが、毎回「生きてる意味ない」と自嘲。現場の士気に悪影響。

【候補C】:笑うと相手の尻に火をつける“尻燃えピエロ”

 →戦闘中でもギャグを言いたがる。魔王にだけは好かれている。

「……これは、選択を間違えると職場が燃えるわね」

 だがその時、彼女の机にひとつの小包が届いた。差出人は――魔王本人。

「珍しいわね。陛下から直々に……あら? なにこれ、ぬいぐるみ?」

 包みを開くと、そこにはもこもことしたぬいぐるみ――いや、“ミニサイズのしゃべる幻獣”が入っていた。

「よっ! 俺、フレンドリーナーガ! すぐに友達になろうとするよ! ぐいぐい行くよ!」

「……これ、どこからツッコめばいいのかしら」

 小さな蛇型幻獣は、彼女の首に絡みながら懐いてきた。

「寂しがり屋の君に贈る、癒やしと友情の化身! おれ、しゃべるし歌うし、あとおなかも空く!」

(なるほど、“癒やし要員”の導入ね。精神疲労が蓄積してるのを察知したのかしら。さすが、陛下だけは……)

 だが、次の瞬間――

「おれの夢は、すべての敵と友達になること! 魔王様とも、ギルドの人間とも、共存共栄! まずは受付嬢とルームシェア!」

「……こいつ、戦線維持どころか思想が危険すぎるわね」

 サマンサは即座に“処理対象リスト”に名前を追加。

《追加:フレンドリーナーガ

 ・敵味方識別不能

 ・無差別懐柔発言あり

 ・結論:愛され力が強すぎて逆に組織崩壊の危険性》

「陛下の好意はありがたいけど、この子、きっと裏切りとかじゃなく“善意で全滅”させちゃうわ」

 まさに“使えないけど憎めない”系モンスターの典型。

 その首の上でじゃれまくるナーガに笑顔を見せながら、サマンサは心を決めた。

「いい? あなたは今から“勇者のお供”として旅に出るの。とっても素敵な人間さんと、友達になれるチャンスよ?」

「ほんとに!? おれ、友達がほしいだけなんだ!」

「ええ、ええ。もう、うんとたくさん作ってきてね♪」

 その日の依頼掲示板には、こういう内容がひっそり貼られていた。

《依頼名:しゃべる幻獣の護衛

 内容:人懐っこすぎる幻獣を、敵と誤解されないよう守りながら村まで送ってください。※幻獣本人は武装を拒否》

 依頼を受けたのは――またしてもラルフだった。

「なんかよくわかんないけど、友達作りって……いいことですよね!」

(ありがとうラルフ。あなた、いっそ魔王軍にスカウトしたいくらい……)


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