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第8話

「……さて、今日の処理予定はあと三件」

 受付カウンターの裏。

 サマンサはお茶菓子をつまみながら、“モンスター人事リスト”を確認していた。

 書類の端には、赤字で目立つ名がある。

【要注意枠】

 ●ファッション特化型ゴーレム“オシャレパイル”

 →毎回戦場に“今日のコーデ”を選ぶため出撃遅延

 →服の組み合わせに命を懸ける。が、実戦では無力

「オシャレなことは罪じゃないけれど、“戦闘中にコートを脱ぎたがる”のは処理対象よね……」

“美意識過剰ゴーレム”を斬るのは少々心苦しいが、魔王軍エリート化のために必要な犠牲だった。

「……でもあの子、“秋冬はグレージュ”って言ってたのに、今週いきなりスパンコール全開にしてきたのよ。迷いがある時点でダメだわ」

 そこへ、ギルドの自動扉(※魔導式)がウィーンと開き、ラルフが突進してくる。

「受付嬢さーん! 例の“輝く岩像”の依頼、受けたいッス! なんかイケてる匂いがしたんで!」

「あら、それは勇気ある選択ですね。では、“オシャレパイル”のコーディネート補佐、お願いいたします」

「……え?」

「戦闘じゃなくて、“ファッションチェック”ですよ? 彼のテンションを維持するには、“うん、そのボレロ似合ってる”と心から言える精神力が必要です。あと三時間ほどコーディネートを聞かされ続けます」

「え、地獄っすね?」

「頑張って。オシャレの道は厳しいですから」

 ラルフが泣きながら依頼書を持っていった後、サマンサはまたひとつチェックを入れる。

《オシャレパイル:討伐予定(精神崩壊による自爆濃厚)》

「ファッションって、命より大事にする子、いますのよね」

 その日の夕方。

 受付カウンターに、焦げたショールを巻いたラルフが戻ってきた。

「見てください……俺、“アシメ”の意味、覚えました……!」

「素敵ですね! そのショール、左右の焼け方が非対称で、今とってもトレンドですわ♪」

「うわああああ!! 帰ったら脱ぎますううう!!」

(オシャレパイルはその後、3時間30分のファッション講義を完了し、“着こなしが決まった”と叫んで爆発した。ある意味、満足していた。処理完了)

 そして夜。

 サマンサは魔王軍本部に、静かに報告書を提出する。


 魔王軍リストラ報告書(簡略版)

 ・フレンドリーナーガ:勇者により“友達斬り”で処理完了(ややトラウマ残留)

 ・オシャレパイル:自己爆発(最期のセリフは“レイヤード失敗!”)

 ・尻燃えピエロ:火災保険未加入につき処理保留(現在も全力逃走中)


「あとは、例の“地味に有能だけど性格が終わってる”魔獣……そろそろ動かす頃合いね」

 その魔獣の名は――

“チクチクバクダンウサギ”

 見た目はぬいぐるみ、爆発すると文句を言う、仲間の指示に全部ツッコミを入れる。

 破壊力あり、でも協調性ゼロ。

(彼を処理できるのは、“メンタルが鋼鉄でないと無理”)

 そんな折、新人冒険者がギルドに来ていた。

 名は……エリナ。静かで、無表情だが妙に観察力がある。

「依頼……何でもいい」

「まあ! じゃあ、チクチクバクダンウサギちゃんの“地雷原おさんぽ”はいかがですか? かわいくて、ちょっとだけ爆発しますの♪」

「……了解」

 サマンサは満面の笑顔で彼女を見送った。

(彼女なら、いけるかもしれない。あの態度、もう少しで“魔王軍側”だわ)


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