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第9話

 ――依頼名:

【爆発注意! おさんぽウサギの爆発抑止】

 内容:

 非常に繊細かつ攻撃的な幻獣“チクチクバクダンウサギ”の情緒安定のため、敵に見つからぬよう、森の中を穏やかにおさんぽさせてください。刺激厳禁。

 備考:

 ・一言でも反論すると起爆モード

 ・“否定”と“空気の読み違い”が最大の地雷

 ・過去、同行者の98%がメンタル崩壊、2%が木陰で悟りを開いた


「ふーん」

 依頼書を無言で読み終えたエリナは、ため息一つもつかずに森へと出発した。

 彼女の隣には、ふわふわの毛玉のような幻獣が跳ねている。耳はピンと立ち、口元は常に小刻みに震え、不安定に笑っている。

「ボク、チクチク……! おさんぽとか、ホント、久しぶりだなぁ~~~~~!!! (※声のトーンが急上昇)」

「……お散歩日和」

「そう!? そうだよね!? いや~~~でも、ボク、歩き方が変って言われたことあって! ホラ、左から出す? 右から出す? どっち!? 間違えたら爆ぜてもいい?」

「……どっちでもいい」

「“どっちでもいい”!? それ、“興味ない”って意味じゃない!? ねぇ!? ボク、ちゃんと“存在”してる!? してないなら、今ここで爆ぜていい!?」

「……かわいい」

「か……っ……!!!!(※激震)」

 エリナは、絶妙な間を保って感情を動かさず、魔獣を褒めた。まるで呼吸するように。

(あと5分……あと5分なだめれば、村の手前で処理できる……)

 が、森の先――木陰に立っていた商人風の冒険者が、不運にも声をかけてしまった。

「お嬢さん! そのウサギ、珍しいですね! ちょっと撫で――」

「ちょっと!? ちょっと!? “撫でていい”って、誰が言った!? “珍しい”って、普通じゃないってこと!? 他人の価値観でボクを測るなぁぁぁ!!」

 ドカァァン!!

 周囲30mが閃光とともに吹き飛び、木々が炭になる。

 エリナは寸前で姿を伏せ、被害を最小限に抑えていた。

「……処理完了」

 爆煙の中で、黒焦げのチクチクウサギが“わりと満足そうな顔”で転がっていた。


 一方、その報告を受けたサマンサ――

 受付カウンター裏で書類にペンを走らせながら、口角を上げる。

「チクチクバクダンウサギ――爆発四散。被害:森林の1/3。情緒不安定レベル:終了。エリナ……使えるわね。近々スカウト枠に入れましょう」

 カウンターには、“依頼完了報告書”を提出に来たエリナが立っていた。

「終わった」

「まぁ、お疲れ様でした♪ こちら、報酬です。あと、カフェチケットと……本日のお茶菓子」

「……ありがとう」

 エリナは無表情にそれを受け取り、そのままギルドの外へ去っていく。

「……ふふ。あの子、“感情が薄い”というより、“人間側での適性に疑問あり”なのよね。将来が楽しみだわ」

 サマンサの目が、しんとした興味と期待で光る。

 その裏で、次なる“惜しいリストラ候補”が名簿に挙がっていた。


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