ギルドカウンターの奥。
サマンサは、魔界製ペンでサラサラと“人材整理報告書”に記入していた。
「……昨日のバクダンウサギで、森林火災が3件。まあ、山火事より魔王軍の健全化の方が大事ですものね」
彼女の前には、次なる処理対象がリストアップされていた。
【候補1】:
名:オレサマミミズ
種族:巨大変異ミミズ
特徴:自己肯定感が異様に高い。長さ12m。どんな状況でも「オレ、イケてる!」と断言。
問題点:何を指摘しても“嫉妬か?”で済ますため、軍内評価のフィードバックが不可能。
【候補2】:
名:バキュームゴースト
種族:幽霊(元清掃員)
特徴:常に業務用掃除機を携行。敵の血を見つけると勝手に吸い始める。
問題点:戦場を“汚された場所”と認識し、敵味方問わず吸引モード発動。
「さあ、今日の処理候補……この中なら、“オレサマミミズ”から行きましょうか」
受付カウンターに現れたのは――久々の登場、ラルフ。
彼の眉間には、過去の任務で“燃えた・泣いた・溶けた”の三点セットが刻まれている。
「ラルフさん、またCランク依頼に挑戦ですか?」
「オレ……“心”を強くしたいんス……!」
「すばらしいですわ。でしたらこちら、“オレサマミミズと仲良くしてほしい依頼”。内容はとっても簡単。“否定しないで同行するだけ”です」
「……何か裏がありそうだけど、もういいッス。行ってきます……」
【現場:草原地帯】
巨大ミミズ(12m)が堂々と地面を這っている。
身体には“イケてる!”と書かれたヘアバンドが巻かれている。
(※なぜか)
「おーっすオレサマ! 今日もイケててごめんな!」
「……お、おお……こんにちは……」
「お前もイケてるな! でもオレの方がイケてるな! まあ気にすんな、嫉妬だもんな! な!」
(うわああ……なんだこの肯定力……! こいつ、会話キャッチボールじゃなくてドッヂボールしてくるタイプだ……!)
ラルフはなんとか会話を続けようと試みるが、次の瞬間――
「お前、今“うぜぇ”って思ったろ? な! な!? わかるぅ〜〜〜! でもオレ、気にしないっ!」
「いや違――」
「そう、違うってことは“違う”って言われたってことはオレが正しいってこと! オレの勝ち!! やったああああ!」
その瞬間、オレサマミミズが謎のテンションでジャンプ。
12mのボディが空に舞い、真上から着地。
ズドォォォォン!
地響きとともに、地面が割れた。
衝撃でラルフは吹っ飛び、木に激突し、全身を震わせながら言った。
「……おれ、もうイケてなくていいです……」
オレサマミミズは、自分の着地の衝撃で背骨(※あるらしい)を損傷し、そのまま自爆的に“ノリノリ自己肯定爆裂”で死亡した。
最期の言葉は、
「オレ、死に様もイケてるぅぅぅぅぅ!!!」
だった。
【ギルド受付にて】
「オレサマミミズ――討伐完了。処理状況:自己肯定ジャンプによる自滅。報告者:ラルフ(現在半泣き)」
「ふふふ……うまく回ってるわね。今日もギルドは平和ですわ♪」