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第11話

 ギルドの朝は早い。

 冒険者たちの騒がしさに混じり、受付カウンターに鎮座するサマンサは今日も完璧な笑顔で業務を開始していた。

 だが、その脳内では――

(さて、次の“処理すべきめんどくさいけど惜しい奴”は……)


【今週のターゲット一覧】

 水精・ミズナローラ

 種族:ポエミック水精霊

 特徴:意見・感情表現はすべてポエム形式のみ。日常会話が“比喩的すぎて分かりづらい”。

 問題点:戦闘中にポエムが長引き、作戦に支障。敵味方の区別も比喩で曖昧。



 妖精・リフリート

 種族:紙妖精(かみようせい)

 特徴:知性は高いが、情報伝達が“食べた紙の内容”に依存する。

 問題点:命令は手書きで与える必要あり。間違えて雑誌を食べさせると“恋愛体質”に変化。



 古代兵・クスクス将軍

 種族:蘇生型アンデッド兵士

 特徴:無敵の防御力と高度な戦術眼。だが、くすぐられると全力で逃げ出す。

 問題点:敵が“柔らかい羽”を持っていると絶叫して崩壊する。




(もう何なのこの人材構成……ほんと、魔王軍って書類選考してる?)

 ため息ひとつ吐きかけたそのとき、また来た。

「受付嬢さーん!! 今日こそ“役立つ”依頼を受けたいっス!」

 ラルフだ。

 彼の表情は、“希望”と“まだ懲りてない”のミックスだった。

「まぁラルフさん、それでしたら今日は特別に選ばせてあげますわ♪ “知的生命体の対応力テスト”に最適な依頼が3つございますの」

「……選べるんスか?」

「はい。

 ①感情が全部ポエムの水精霊の護衛、

 ②紙を食べることでしか意思疎通できない天才妖精の補佐、

 ③くすぐったら死ぬ無敵将軍の護衛任務、ですわ♪」

「うわー……地雷臭しかしねぇ……」

「では、ポエム水精・ミズナローラ嬢の護衛をどうぞ♪」

「って早ッ!? 選んでねぇッス!」


【現場:湖畔】

 ラルフがボートで渡った先、静かに佇む一人の美しい女性の姿。

 彼女が口を開いた。

「波の心 寄せては返す 想いかな……あなた、ラルフ、ですね」

「……え、あ、はい。俺っス。今日一緒に行動するっス」

「行動とは 風と共に歩む 願いのこと……」

「(え、行くって意味?)……あの、どっち行きます?」

「右に見ゆ 木々のささやき 導きよ」

「右っスね、了解っス!」

 ラルフは必死にポエムを翻訳しながら護衛任務を続けた。が――

【敵:盗賊団出現】

「やい水精! 美人だって噂だが、今ここで金を置いていけ!」

 ミズナローラがくるりと舞いながら口を開いた。

「花咲かず 刃を抱いた 愚か者……」

「ん? どういう意味だ?」

 次の瞬間、彼女の手元から水が踊り出し、文字が浮かぶように敵の顔を殴打した。

《貴様の人生、川のように流されよ》

 ドゴォォン!!

 盗賊が一人、川へ叩き落される。

 だが彼女は続ける。

「水の詩 渇きの心 潤すため……」

「待ってミズナローラさん! その人もう沈んでるッス!」

「沈むとは 己の罪に 飲まれること」

「やべぇ、通じてねぇ!!」

 彼女の詩が暴走モードに入り、湖全体が「悲しみの波紋」として広がり出す。

 ラルフは必死にポエムで応戦した。

「えーと……えーと……『湖よ! 今は黙れと 俺が言う』ッス!」

 水精の動きがぴたりと止まる。

「……その詩、響きました……」

 湖が静まる。

「セ、セーフ……! 俺、今日、なんか詩人になった気がする……!」


【ギルド受付】

「ミズナローラ――行動には問題があったが、ラルフの詩的な説得により“水没”は避けられました」

 サマンサは書類にこう記す。

《結論:破壊的だが、詩に反応あり。引き続き“詩の通訳係”を探索中。もしくは“川”への再配置を検討》

「次は……紙食妖精か、くすぐり将軍かしらね……」


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