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第12話

 ギルドの朝。

 サマンサは、背後の棚から“最重要ファイル”を取り出していた。

「さて、次は“リフリート”。IQ300を誇る妖精だけれど……文字を食べることでしか情報を読み込めないのが致命的だったわね」


【モンスター情報:リフリート】

 種族:紙妖精(かみようせい)

 能力:紙を食べると、その内容を“人格として取り込む”

 問題点:扱う文書次第で、性格も方針もコロコロ変化。混乱を招く。

 事例:

 ・辞書を食べてしまい、発言が全部「用語の定義」に。

 ・恋愛小説を食べてしまい、幹部にキスを求めて謎の粛清。

 ・取扱説明書を食べて「全自動妖精」化。自爆機能を探し始めた。


「そんな子には、“絶対に中身を読ませてはいけない紙”を持っていかせるのが一番。そう、“週刊くだらない大冒険”のバックナンバーとか」

 ちょうどそこへ現れたのが、今やギルドの生ける噛ませ――ラルフであった。

「今度こそ! “知的モンスター”と心を通わせるッス!」

「まぁラルフさん、それでしたらリフリートさんの“文書調整”のお仕事がぴったり♪ ただし、食べさせる紙にはご注意を。絶対に! “変な本”を混ぜないように!」


【現場:ギルド地下・図書庫】

 そこには、もふっとした髪と淡い蛍光色の羽をもった、掌サイズの妖精が浮いていた。

「リフリートさん、今日からこの方が文書管理係です♪」

「こんにちは、ぼくは“紙を食べて育つ系”妖精です。よろしく……あ、おなかすいた」

 ラルフはカバンから、用意された“安全なマニュアル”を差し出す。

「これっス! “正しい扉の開け方”……めっちゃ地味な冊子だけど」

「……もぐもぐ……“ドアは押すより引け。安全確認ヨシ”……はい、覚えた!」

「……わぁ、地味!」

「でも……食べたいのは、もっと……こう、情熱的な紙……!」

「あっ! それはだめッス!」

 だが、ラルフのカバンから一枚、落ちた。

【“恋する鍛冶屋! 武器より抱いて!”】

「……なにこれ。最高に情熱的な匂い……!」

「やめ――」

 バリバリバリバリ!!!

 妖精が紙を飲み込み、目をぎらつかせた。

「愛ってなに!? 今、わかった! 伝えなきゃ! この熱! このキスを!!」

「やべえええ!!」

 ラルフは妖精から逃げ回りながら、応接室を突き抜け、魔獣飼育室に突入、さらにパンフレット棚を崩壊させて爆走。

 その最中もリフリートは叫び続けた。

「ラルフ! あたし、鍛えたい! あなたとの関係を! 溶鉱炉より熱く!」

「お、俺は剣の修行に集中したいだけなのにィィィ!」

 最後は、たまたま“冷静な百科事典”を食べさせることに成功し、リフリートは一瞬で冷静モードに戻った。

「……失礼しました。知識暴走、終了です」


【ギルドカウンター】

「紙食妖精――処理完了。性格変化激しく危険。再配置先として“魔界図書館・禁書管理部”を提案」

 サマンサは、ラルフの焼けた袖を見て一言。

「愛されるって、辛いものですね♪」

「しばらく紙と距離置きます……!」

(ええ、“恋愛指南書を食った妖精”に追いかけられた男なんて、そうそういないわ。処理成功♪)


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