「……さあて、いよいよ来たわね」
サマンサがカウンター裏でそっと広げたのは、特級処理対象ファイル(薄笑付き)。
【モンスター名】:クスクス将軍
種族:古代アンデッド兵士
特徴:全身鎧・高耐久・高火力・不死性・命令従順・忠誠心S
ただし、唯一の欠点――“くすぐり”に極端に弱く、背中やわき腹に触れると崩壊的に爆笑し始め、人格崩壊+誤爆モードに入る。
実害例:
・部下の羽根付き帽子が擦れただけで爆笑モード突入。隊を踏み潰して“たすけて〜ひゃははは!”と叫びながら逃走。
・戦場で笑い転げて敵味方が混乱。無敵すぎて“止める手段がない”状態に。
・本人は深刻に悩んでいるが、「自分をくすぐれない訓練官はクズ」とか言い出す。
「サラリーマン時代の上司に似てるわね……笑いすぎて崩壊するタイプ」
そこへ、カウンター前に立ったのは――
冒険者エリナ。冷静で寡黙、そして最強のギルド新人。
「依頼、ある?」
「ええ、“無敵の将軍をやさしくくすぐって倒す”という、非常に技術が問われる任務ですわ」
「……変な依頼」
「でも簡単。“敵意を向けない”のがポイントですの」
【現場:遺跡地下、封印の間】
全身を古代魔導鎧に包んだクスクス将軍が、まっすぐに立っていた。
「貴様……この封印を解いたのは誰だ……我が義を問うぞ」
「こんにちは。手紙、持ってきた」
エリナが差し出したのは、“魔王直筆:異動通知書(偽)”。
将軍が手紙を受け取り――
「ふむ……我が異動は……“リラックス訓練所・笑顔科”? ……は?」
「読みながら、背中を向けた。チャンス」
無言で近づき、エリナは鞄から取り出す。
もふもふ極太羽毛ペン。
「ッ!! その道具は……!」
「“くすぐり免許三級”所持者。いきます」
サッ、サッサッ……スッ……
「ぴゃはっ……!? あっ……いや……そこは……ふっ……貴様、なにを――ふひゃああああああ!!!」
ガシャアアアンッ!!
鎧が脱げた。笑いすぎて、物理的にボルトが外れた。
将軍は笑いながら転がりまわり、壁をぶち破り、遺跡の柱に頭をぶつけ、最終的に動かなくなった。
その顔には――笑顔。
(※物理的に崩壊)
【ギルド受付】
「クスクス将軍――討伐完了。処理状況:“くすぐり攻撃”による耐性崩壊。遺跡一部損壊。笑いすぎによる自己崩壊。報告者:エリナ(羽ペンは返却済)」
「これでようやく、“勝手に笑って勝手に全滅させる”兵士とはおさらばね」
そう言いながら、サマンサはふと考える。
(でもこの将軍、もし“くすぐり対策”さえされていたら……)
だが、次の瞬間、机上の封筒に目が止まる。
【至急:魔王より次なる候補の書類】
封を切ると――
【新処理対象予告】:
・“おしゃべりすぎて呪文が全部口頭解説される魔女”
・“武器が喋るせいでバレる忍者”
・“マスコット枠で雇ったのに年齢詐称のベテランスライム”
サマンサはため息一つ。
「……休む暇がないわね。でも、それが私のお仕事。ギルドの受付嬢――という名の、魔王軍改革者ですもの♪」