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第13話

「……さあて、いよいよ来たわね」

 サマンサがカウンター裏でそっと広げたのは、特級処理対象ファイル(薄笑付き)。


【モンスター名】:クスクス将軍

 種族:古代アンデッド兵士

 特徴:全身鎧・高耐久・高火力・不死性・命令従順・忠誠心S

 ただし、唯一の欠点――“くすぐり”に極端に弱く、背中やわき腹に触れると崩壊的に爆笑し始め、人格崩壊+誤爆モードに入る。

 実害例:

 ・部下の羽根付き帽子が擦れただけで爆笑モード突入。隊を踏み潰して“たすけて〜ひゃははは!”と叫びながら逃走。

 ・戦場で笑い転げて敵味方が混乱。無敵すぎて“止める手段がない”状態に。

 ・本人は深刻に悩んでいるが、「自分をくすぐれない訓練官はクズ」とか言い出す。


「サラリーマン時代の上司に似てるわね……笑いすぎて崩壊するタイプ」

 そこへ、カウンター前に立ったのは――

 冒険者エリナ。冷静で寡黙、そして最強のギルド新人。

「依頼、ある?」

「ええ、“無敵の将軍をやさしくくすぐって倒す”という、非常に技術が問われる任務ですわ」

「……変な依頼」

「でも簡単。“敵意を向けない”のがポイントですの」


【現場:遺跡地下、封印の間】

 全身を古代魔導鎧に包んだクスクス将軍が、まっすぐに立っていた。

「貴様……この封印を解いたのは誰だ……我が義を問うぞ」

「こんにちは。手紙、持ってきた」

 エリナが差し出したのは、“魔王直筆:異動通知書(偽)”。

 将軍が手紙を受け取り――

「ふむ……我が異動は……“リラックス訓練所・笑顔科”? ……は?」

「読みながら、背中を向けた。チャンス」

 無言で近づき、エリナは鞄から取り出す。

 もふもふ極太羽毛ペン。

「ッ!! その道具は……!」

「“くすぐり免許三級”所持者。いきます」

 サッ、サッサッ……スッ……

「ぴゃはっ……!? あっ……いや……そこは……ふっ……貴様、なにを――ふひゃああああああ!!!」

 ガシャアアアンッ!!

 鎧が脱げた。笑いすぎて、物理的にボルトが外れた。

 将軍は笑いながら転がりまわり、壁をぶち破り、遺跡の柱に頭をぶつけ、最終的に動かなくなった。

 その顔には――笑顔。

(※物理的に崩壊)


【ギルド受付】

「クスクス将軍――討伐完了。処理状況:“くすぐり攻撃”による耐性崩壊。遺跡一部損壊。笑いすぎによる自己崩壊。報告者:エリナ(羽ペンは返却済)」

「これでようやく、“勝手に笑って勝手に全滅させる”兵士とはおさらばね」

 そう言いながら、サマンサはふと考える。

(でもこの将軍、もし“くすぐり対策”さえされていたら……)

 だが、次の瞬間、机上の封筒に目が止まる。

【至急:魔王より次なる候補の書類】

 封を切ると――


【新処理対象予告】:

 ・“おしゃべりすぎて呪文が全部口頭解説される魔女”

 ・“武器が喋るせいでバレる忍者”

 ・“マスコット枠で雇ったのに年齢詐称のベテランスライム”


 サマンサはため息一つ。

「……休む暇がないわね。でも、それが私のお仕事。ギルドの受付嬢――という名の、魔王軍改革者ですもの♪」


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