朝。
ギルドカウンターの裏で、サマンサは静かに紅茶をすする。
その横には、魔王軍から届いた“処理候補リスト”が3件並んでいた。
【今回の処理対象候補】
①解説魔女エレクトラ
特徴:
呪文を唱える前に“必ず詳細解説”してしまう癖がある。
「この呪文はですね、相手の動きを鈍らせて、3秒後に頭に雷を落とすタイプの……はい、いきます!」
→敵に予告され、回避される。
→味方も呪文を聞く時間が無駄で戦闘テンポが崩壊。
②おしゃべり忍者タメゾウ
特徴:
常時武器と喋っている。
さらに、敵の背後に回ると「いま背後取ったわー」と声に出して報告してしまう。
→全ての隠密作戦が失敗に終わる。忍者協会からも除名処分。
③ベテランスライム・オバハンマル
特徴:
見た目はぷるぷるのマスコット。
しかし中身は300年生きた老婆スライム。説教が長く、癖のある関西弁。
→敵と会話中に“昔話”を始めて戦闘不能に。
→あめちゃんを投げることでしか攻撃しない。
「うん、今日も濃いラインナップね。……じゃ、まずは魔女からいきましょうか」
ちょうどそのとき、入口から若干気だるそうな男が現れる。
「おーっす、依頼受けにきた。……てか、今日“ちょっと楽なやつ”ない?」
現れたのは、ギルドの“脱力系軽戦士”ジノだった。
いつもテンションが低く、敵に対しても「無理しない範囲で戦います」が口癖。
「ジノさん、そんなあなたにぴったりの依頼がありますわ。“魔女とペアで作戦遂行”。とっても平和的ですの」
「んー……まぁ、なんか大丈夫そうだし、行ってくるわ……」
【現場:とある丘の廃墟】
ジノが到着すると、そこには魔女・エレクトラが立っていた。
黒いローブに、いかにも高位魔術師の雰囲気。……が、口元に妙な“クセ”がある。
「はじめまして! わたしエレクトラと申します! 今日はよろしくお願いします! あっ、ちなみに魔術の知識、得意です!」
「(あっ、しゃべる系か……)」
そのとき――敵が現れる。
盗賊風の男たちが6人、木陰から現れた。
「おう、魔女ってのは弱点多いんだろ? お宝置いてけ!」
エレクトラ、杖をかかげる。
「はい、ではこれから撃つ呪文の解説を始めますね! これは“雷霆の陣”と呼ばれる初級上位複合魔法で、範囲内の敵に電撃をばら撒くんですが、事前に空気中の水分を圧縮し――」
「もういいってば!!」
盗賊たち、話の途中で左右に回避し始める。
「次! 次の呪文はですね、これは“火竜連弾”といいまして、龍の形を模した――」
バァァン!
火球が空振りして小屋だけ燃える。
ジノは隣でぼやく。
「俺の出番ないな……」
盗賊のひとりがつぶやく。
「情報量が多すぎる……なんだあの実況中継……!」
そして最後、エレクトラが叫ぶ。
「では今から“最終奥義”――“心を撃ち抜く魔女の誘惑”を……!」
ジノ、敵に斬りかかりながらぼやいた。
「もう無理だな。帰ろう」
盗賊たち:「同感!」
戦闘終了。
【ギルド・カウンター】
「解説魔女エレクトラ――戦闘不能ではないが、“味方を疲弊させるリスク”と“作戦漏洩率の高さ”から、現場配置には不向きと判断。現在“講義担当魔女”として再教育中」
「うん。やっぱり魔法は黙って撃ってほしいわよね」
サマンサが満足げに書類を閉じたその時――
武器と喧嘩している忍者のタメゾウがギルドの前で大声を上げた。
「うるせえ! この手裏剣、勝手に喋るな!!」
サマンサ、そっとペンを握る。
「……じゃ、次はあなたね」