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第14話

 朝。

 ギルドカウンターの裏で、サマンサは静かに紅茶をすする。

 その横には、魔王軍から届いた“処理候補リスト”が3件並んでいた。


【今回の処理対象候補】

 ①解説魔女エレクトラ

 特徴:

 呪文を唱える前に“必ず詳細解説”してしまう癖がある。

「この呪文はですね、相手の動きを鈍らせて、3秒後に頭に雷を落とすタイプの……はい、いきます!」

 →敵に予告され、回避される。

 →味方も呪文を聞く時間が無駄で戦闘テンポが崩壊。

 ②おしゃべり忍者タメゾウ

 特徴:

 常時武器と喋っている。

 さらに、敵の背後に回ると「いま背後取ったわー」と声に出して報告してしまう。

 →全ての隠密作戦が失敗に終わる。忍者協会からも除名処分。

 ③ベテランスライム・オバハンマル

 特徴:

 見た目はぷるぷるのマスコット。

 しかし中身は300年生きた老婆スライム。説教が長く、癖のある関西弁。

 →敵と会話中に“昔話”を始めて戦闘不能に。

 →あめちゃんを投げることでしか攻撃しない。


「うん、今日も濃いラインナップね。……じゃ、まずは魔女からいきましょうか」

 ちょうどそのとき、入口から若干気だるそうな男が現れる。

「おーっす、依頼受けにきた。……てか、今日“ちょっと楽なやつ”ない?」

 現れたのは、ギルドの“脱力系軽戦士”ジノだった。

 いつもテンションが低く、敵に対しても「無理しない範囲で戦います」が口癖。

「ジノさん、そんなあなたにぴったりの依頼がありますわ。“魔女とペアで作戦遂行”。とっても平和的ですの」

「んー……まぁ、なんか大丈夫そうだし、行ってくるわ……」


【現場:とある丘の廃墟】

 ジノが到着すると、そこには魔女・エレクトラが立っていた。

 黒いローブに、いかにも高位魔術師の雰囲気。……が、口元に妙な“クセ”がある。

「はじめまして! わたしエレクトラと申します! 今日はよろしくお願いします! あっ、ちなみに魔術の知識、得意です!」

「(あっ、しゃべる系か……)」

 そのとき――敵が現れる。

 盗賊風の男たちが6人、木陰から現れた。

「おう、魔女ってのは弱点多いんだろ? お宝置いてけ!」

 エレクトラ、杖をかかげる。

「はい、ではこれから撃つ呪文の解説を始めますね! これは“雷霆の陣”と呼ばれる初級上位複合魔法で、範囲内の敵に電撃をばら撒くんですが、事前に空気中の水分を圧縮し――」

「もういいってば!!」

 盗賊たち、話の途中で左右に回避し始める。

「次! 次の呪文はですね、これは“火竜連弾”といいまして、龍の形を模した――」

 バァァン!

 火球が空振りして小屋だけ燃える。

 ジノは隣でぼやく。

「俺の出番ないな……」

 盗賊のひとりがつぶやく。

「情報量が多すぎる……なんだあの実況中継……!」

 そして最後、エレクトラが叫ぶ。

「では今から“最終奥義”――“心を撃ち抜く魔女の誘惑”を……!」

 ジノ、敵に斬りかかりながらぼやいた。

「もう無理だな。帰ろう」

 盗賊たち:「同感!」

 戦闘終了。


【ギルド・カウンター】

「解説魔女エレクトラ――戦闘不能ではないが、“味方を疲弊させるリスク”と“作戦漏洩率の高さ”から、現場配置には不向きと判断。現在“講義担当魔女”として再教育中」

「うん。やっぱり魔法は黙って撃ってほしいわよね」

 サマンサが満足げに書類を閉じたその時――

 武器と喧嘩している忍者のタメゾウがギルドの前で大声を上げた。

「うるせえ! この手裏剣、勝手に喋るな!!」

 サマンサ、そっとペンを握る。

「……じゃ、次はあなたね」


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