ギルド受付――昼過ぎ。
サマンサは、ラベンダーの香るインクで新しい“処理対象リスト”にチェックを入れていた。
「……次は喋る忍者ね。あれはもう、“忍ぶ”気ゼロですもの」
ファイルには詳細が記されている。
【対象名】:忍者・タメゾウ(本名:田目三造)
所属:元・魔王軍暗部
特徴:武器に“魂を宿す術”を自分でかけたせいで、装備が常時おしゃべり。
短剣「シリウス」→ツンデレ気質
手裏剣「ペラ子」→毒舌
煙玉「ぽんぽん」→自爆癖あり
結果:
・潜伏中に手裏剣が「今背後取ったからね〜★」と叫ぶ
・武器同士の口喧嘩で本人のメンタル崩壊
・任務達成率、4%
「彼の処理、ちょっと一工夫いるわね……いっそ、“騒がしさを楽しめる子”を当てたらいいかしら」
その時、受付に現れたのは――
以前ミノタウロスと五・七・五バトルを繰り広げた吟詠騎士・ヒバリだった。
「……サマンサ殿。今日の依頼、“言葉で通じ合える相手”がよい」
(来た! 今回の“生贄”!)
「ではヒバリさん、“対話重視”で忍ぶ依頼がございます。喋る武器を持った忍者の同行任務。ぴったりですわ♪」
「忍者が……喋るのか?」
「はい、もうずーっと」
【任務開始:夜の城跡】
月明かりの下、ヒバリとタメゾウが塀をよじ登る。
「よーし、今から潜入開始だぜ。“しーっ”てな。武器共、静かにしてろよ?」
「へいへーい、あたしを投げたら絶対文句言うからね☆(ペラ子)」
「ちょっと! 昨日の手入れが雑だったわよ!(シリウス)」
「ぽんっっ!! 煙玉は空気読めっつーの!!(ぽんぽん)」
ヒバリは眉をひそめた。
「……これが、忍び?」
「ちげえよォ!? こいつらが勝手にしゃべんのよォォ!」
その時、巡回兵が近づく。
「誰だ!? そこにいるのは――」
ペラ子(手裏剣):「敵発見☆ いま右前方45度から斬りかかってくるわよ〜ん!」
シリウス(短剣):「ヒバリさん、無駄にかっこつけてないで構えなさいな!」
ヒバリはそっと抜刀し、詠んだ。
「刃鳴りより 煩き言葉 風までも」
敵をバッサリ斬る。
タメゾウ「……なんで俺の存在感が完全に消えてんの!? 主人公っぽいの俺だったよね!?」
その瞬間、ぽんぽん(煙玉)が自主的に爆発した。
ボフンッ!!
タメゾウ:「ぎゃああああああ!!!」
ヒバリ:「……この者、忍べぬ」
【ギルド報告】
「タメゾウ――任務失敗。自爆、武器との喧嘩、情報漏洩すべて揃った見事な自滅。処理完了。現在、魔王軍“PR部・お騒がせ枠”に移送予定」
サマンサは小さく笑った。
「次に喋りたいなら、“広報担当”として歌でも歌っていればいいわ」
その横で、新たなファイルがぬるっと机に乗った。
【次の処理対象】:
マスコット枠で雇ったが中身が説教ババアのスライム、“オバハンマル”
・通称:飴玉の魔女
・攻撃:あめちゃん
・特技:説教3時間耐久
・被害例:敵兵が“戦う前に疲れて逃げる”
サマンサ、書類にニヤリと赤丸をつけた。
「次は……飴と説教のスライムね。ギルドの空気が甘くなりそう♪」