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第15話

 ギルド受付――昼過ぎ。

 サマンサは、ラベンダーの香るインクで新しい“処理対象リスト”にチェックを入れていた。

「……次は喋る忍者ね。あれはもう、“忍ぶ”気ゼロですもの」

 ファイルには詳細が記されている。


【対象名】:忍者・タメゾウ(本名:田目三造)

 所属:元・魔王軍暗部

 特徴:武器に“魂を宿す術”を自分でかけたせいで、装備が常時おしゃべり。

 短剣「シリウス」→ツンデレ気質

 手裏剣「ペラ子」→毒舌

 煙玉「ぽんぽん」→自爆癖あり

 結果:

 ・潜伏中に手裏剣が「今背後取ったからね〜★」と叫ぶ

 ・武器同士の口喧嘩で本人のメンタル崩壊

 ・任務達成率、4%


「彼の処理、ちょっと一工夫いるわね……いっそ、“騒がしさを楽しめる子”を当てたらいいかしら」

 その時、受付に現れたのは――

 以前ミノタウロスと五・七・五バトルを繰り広げた吟詠騎士・ヒバリだった。

「……サマンサ殿。今日の依頼、“言葉で通じ合える相手”がよい」

(来た! 今回の“生贄”!)

「ではヒバリさん、“対話重視”で忍ぶ依頼がございます。喋る武器を持った忍者の同行任務。ぴったりですわ♪」

「忍者が……喋るのか?」

「はい、もうずーっと」


【任務開始:夜の城跡】

 月明かりの下、ヒバリとタメゾウが塀をよじ登る。

「よーし、今から潜入開始だぜ。“しーっ”てな。武器共、静かにしてろよ?」

「へいへーい、あたしを投げたら絶対文句言うからね☆(ペラ子)」

「ちょっと! 昨日の手入れが雑だったわよ!(シリウス)」

「ぽんっっ!! 煙玉は空気読めっつーの!!(ぽんぽん)」

 ヒバリは眉をひそめた。

「……これが、忍び?」

「ちげえよォ!? こいつらが勝手にしゃべんのよォォ!」

 その時、巡回兵が近づく。

「誰だ!? そこにいるのは――」

 ペラ子(手裏剣):「敵発見☆ いま右前方45度から斬りかかってくるわよ〜ん!」

 シリウス(短剣):「ヒバリさん、無駄にかっこつけてないで構えなさいな!」

 ヒバリはそっと抜刀し、詠んだ。

「刃鳴りより 煩き言葉 風までも」

 敵をバッサリ斬る。

 タメゾウ「……なんで俺の存在感が完全に消えてんの!? 主人公っぽいの俺だったよね!?」

 その瞬間、ぽんぽん(煙玉)が自主的に爆発した。

 ボフンッ!!

 タメゾウ:「ぎゃああああああ!!!」

 ヒバリ:「……この者、忍べぬ」


【ギルド報告】

「タメゾウ――任務失敗。自爆、武器との喧嘩、情報漏洩すべて揃った見事な自滅。処理完了。現在、魔王軍“PR部・お騒がせ枠”に移送予定」

 サマンサは小さく笑った。

「次に喋りたいなら、“広報担当”として歌でも歌っていればいいわ」

 その横で、新たなファイルがぬるっと机に乗った。

【次の処理対象】:

 マスコット枠で雇ったが中身が説教ババアのスライム、“オバハンマル”

 ・通称:飴玉の魔女

 ・攻撃:あめちゃん

 ・特技:説教3時間耐久

 ・被害例:敵兵が“戦う前に疲れて逃げる”


 サマンサ、書類にニヤリと赤丸をつけた。

「次は……飴と説教のスライムね。ギルドの空気が甘くなりそう♪」


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