新しいユニフォームが届いた日、空気は期待と緊張が入り混じっていた。
「うわっ、これ……マジでチームっぽい」
シュンスケが笑いながら袖を通す。紺地に銀のラインが入ったデザイン。左胸には《Re:Boot SC》の刺繍、背中には番号と、それぞれの“役割”が英語で小さく入っていた。
「俺、“ENGINE”。たしかにプレースタイルそうかも」
「私は“BALANCE”。うん、自分らしい」
悠右と綾世が嬉しそうに言う。その様子を見ながら、孔佑は静かにユニフォームを折りたたんだ。
「悪くない。……でも、俺は“TIMEKEEPER”っての、ちょっとだけ重い」
「そりゃあ、あんた誰よりも“責任”の重さで動いてたもんな」
龍星が笑いながら言うと、孔佑も少しだけ唇を緩めた。
ただ、その場にいなかったのは――優だった。
午後の全体ミーティング。彼女は来なかった。
「熱出したとか?」
「いや、違う」
一就がぽつりと答えた。
「さっき、校舎裏で会ったけど……“今のままじゃ、大会に出すわけにはいかない”って言ってた。
“誰かが頑張ってる”だけじゃ、組織にはならない。
全員が“勝ちたい理由”を言葉にして、他人にぶつけないと、チームとは言えないって」
その言葉が、空気を一変させた。
「なにそれ、急にどうしたのあの人」
シュンスケが言う。
「たしかに熱はない。でも、あの顔は……“どこかで引いてる顔”だった」
悠右が静かに補足する。
「つまり、チームは“前に進みすぎて”、優だけがそのスピードについて来られなかったってこと?」
「違うよ」
栄利子が口を開いた。
「“来られなかった”じゃなくて、“来なかった”。優は、全部計算してる。
あの人、ずっと“誰かがリーダーになる”のを待ってるんだよ。
でも、それが“誰にも委ねられないまま”進んでるのが、今のうちら」
全員が沈黙した。
確かに、今やチームは自然と回っている。誰かが提案すれば誰かが補強し、課題を出せば誰かが解決する。でも、“全体を引っ張る”存在は、あの日以来、どこにもいなかった。
その夜、龍星は優を探し、校舎裏のベンチで見つけた。
彼女はユニフォームの試作品を膝にのせ、じっと眺めていた。
「来なかったのかよ」
「……行っても、意味がないから」
「意味? なにそれ。優がいなかったら、今のチームなかったんだぞ」
「でも、今はもう……みんなが勝手に進んでる。私がいなくても、成り立ってる。
それが、嬉しくもあり、少しだけ……怖い」
風が静かに、彼女の髪を揺らした。
「私、ずっと“後ろから支える”って決めてた。
でも……それが“逃げ”だったのかもしれないって、最近思うようになった」
龍星は静かに彼女の隣に座った。
「だったら、今からでも前に来いよ」
「前に立って、何をするの?」
「……“覚悟を示す”。リーダーって、そういうもんだろ?」
しばらくして、優は小さく笑った。
「じゃあ、私もユニフォーム、着ようかな。“MANAGER”って書いてあるやつ」
「“LEADER”に書き直してやるよ。銀ペンで」
「……それ、規定違反」
二人の間に、ようやくいつもの空気が戻った。
その翌朝。
チーム全員が集まった教室の黒板に、優が自らの手でこう書いた。
「次の公式試合、出場確定。相手:常誠高校」
そして、その下にもう一行。
「ここから先は、“勝たなきゃ”進めない」
(つづく)