目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

【第11章 選ばれる声、離れそうな背中】

 公式戦での引き分け通過から三日後。校内の掲示板に、ひとつの貼り紙が現れた。

 《週刊スポーツライト・特集:無名校が挑む戦場》

 ~“Re:Boot SC(仮)”という可能性~

 「えっ、これ……うちら?」

 悠右が指差した記事のコピーには、チームメンバーの名前と写真、簡単なポジション紹介、そして試合当日の活躍が掲載されていた。中央に写っていたのは、シュンスケが決めた同点ゴールの瞬間。躍動感あるその一枚に、通行人の足も止まる。

 「これ、記者さんいたの?」

 「いた。試合後、俺に名刺渡してきた。優の紹介だって」

 シュンスケがぼやくように言う。

 その日の放課後――

 ミーティングルームには、いつもと違う緊張が走っていた。

 というのも、スカウトの名刺が二枚、机の上に置かれていたからだ。

 一枚は、県リーグのU-18選抜担当者のもの。そしてもう一枚は、関西圏の強豪私学が設けた“推薦スカウト枠”の封筒だった。

 「これ……まさか、うちらに?」

 「いや。個人宛だ」

 一就が口を開いた。

 「U-18の方はシュンスケ。私学の方は、悠右。

  どっちも“チームとして”じゃなく、“プレイヤーとして”評価されたってことだ」

 静寂が落ちた。

 「……行くべきなんじゃない?」

 最初に口を開いたのは栄利子だった。

 「自分に声がかかるって、すごいことだよ。

  “チームにいるから辞退する”って選択は、私はちょっと違うと思う」

 「いや、でも……このチーム、これから“次の山場”だろ? 大事な時期だ」

 シュンスケが俯きながら言った。

 「“評価されること”と、“一緒に走ること”って、両立しないのか?」

 孔佑が問いかけるように呟く。

 「もしそれが矛盾するなら、“チーム”ってなんだ?」

 答えは出なかった。誰も正解を持っていなかった。

 その夜、龍星はグラウンドにひとり残っていた。

 いつも通りの練習をこなし、夜の空気を吸い込みながら、ボールをつついていると――

 「……お前、また一人で考えてんのかよ」

 声をかけてきたのは、シュンスケだった。

 「なあ、俺……抜けるって選択、間違ってるのか?」

 「誰も間違ってるなんて言ってねえよ」

 龍星は言い切った。

 「お前が選ばれたのは、今までお前が走ってきた証拠だ。

  それに誇りを持っていい。

  ただ、それが“今のチームにとって何なのか”ってことは、ちゃんと考えてほしい」

 「……俺が抜けたら、次の試合、厳しいと思う?」

 「思う。けど、“お前がいたから戦えた”とも思ってる。

  だからその分、俺たちが強くなる。お前がいた時間を、“無駄にしない”って意味でな」

 シュンスケは、顔を上げて笑った。

 「……お前、やっぱキャプテンだな」

 その翌日。

 シュンスケと悠右は、全員の前で頭を下げた。

 「俺たち、推薦を受ける。けど、今のチームも、最後まで走る。

  “選ばれた理由”を、チームで証明する」

 その言葉に、誰もが拍手で応えた。

 この選択が、チームに何をもたらすのかは、まだ誰にも分からなかった。

 でも、確かなことがひとつだけあった。

 “選ばれる”ことで離れるのではなく、チームを背負う覚悟に変えた――それだけは、誰の目にも焼きついていた。

(つづく)


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?