公式戦での引き分け通過から三日後。校内の掲示板に、ひとつの貼り紙が現れた。
《週刊スポーツライト・特集:無名校が挑む戦場》
~“Re:Boot SC(仮)”という可能性~
「えっ、これ……うちら?」
悠右が指差した記事のコピーには、チームメンバーの名前と写真、簡単なポジション紹介、そして試合当日の活躍が掲載されていた。中央に写っていたのは、シュンスケが決めた同点ゴールの瞬間。躍動感あるその一枚に、通行人の足も止まる。
「これ、記者さんいたの?」
「いた。試合後、俺に名刺渡してきた。優の紹介だって」
シュンスケがぼやくように言う。
その日の放課後――
ミーティングルームには、いつもと違う緊張が走っていた。
というのも、スカウトの名刺が二枚、机の上に置かれていたからだ。
一枚は、県リーグのU-18選抜担当者のもの。そしてもう一枚は、関西圏の強豪私学が設けた“推薦スカウト枠”の封筒だった。
「これ……まさか、うちらに?」
「いや。個人宛だ」
一就が口を開いた。
「U-18の方はシュンスケ。私学の方は、悠右。
どっちも“チームとして”じゃなく、“プレイヤーとして”評価されたってことだ」
静寂が落ちた。
「……行くべきなんじゃない?」
最初に口を開いたのは栄利子だった。
「自分に声がかかるって、すごいことだよ。
“チームにいるから辞退する”って選択は、私はちょっと違うと思う」
「いや、でも……このチーム、これから“次の山場”だろ? 大事な時期だ」
シュンスケが俯きながら言った。
「“評価されること”と、“一緒に走ること”って、両立しないのか?」
孔佑が問いかけるように呟く。
「もしそれが矛盾するなら、“チーム”ってなんだ?」
答えは出なかった。誰も正解を持っていなかった。
その夜、龍星はグラウンドにひとり残っていた。
いつも通りの練習をこなし、夜の空気を吸い込みながら、ボールをつついていると――
「……お前、また一人で考えてんのかよ」
声をかけてきたのは、シュンスケだった。
「なあ、俺……抜けるって選択、間違ってるのか?」
「誰も間違ってるなんて言ってねえよ」
龍星は言い切った。
「お前が選ばれたのは、今までお前が走ってきた証拠だ。
それに誇りを持っていい。
ただ、それが“今のチームにとって何なのか”ってことは、ちゃんと考えてほしい」
「……俺が抜けたら、次の試合、厳しいと思う?」
「思う。けど、“お前がいたから戦えた”とも思ってる。
だからその分、俺たちが強くなる。お前がいた時間を、“無駄にしない”って意味でな」
シュンスケは、顔を上げて笑った。
「……お前、やっぱキャプテンだな」
その翌日。
シュンスケと悠右は、全員の前で頭を下げた。
「俺たち、推薦を受ける。けど、今のチームも、最後まで走る。
“選ばれた理由”を、チームで証明する」
その言葉に、誰もが拍手で応えた。
この選択が、チームに何をもたらすのかは、まだ誰にも分からなかった。
でも、確かなことがひとつだけあった。
“選ばれる”ことで離れるのではなく、チームを背負う覚悟に変えた――それだけは、誰の目にも焼きついていた。
(つづく)