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第3話


「着いたわね!」


 中央広場に到着すると、広場には長い列が出来ていた。

 広場の真ん中では次々と子どもたちが石板に手を当てている。


「あの石板に手を当てるとスキル名が分かるんだよな」


「うん。手を当ててしばらくするとスキル名が表示されるの。実はあたし、去年スキル判定式を覗きに来たの。何も知らないまま判定式に挑むのは怖くて」


「確か俺も一緒に行かないかって誘われたよな。先約があったから断っちゃったけど」


 もう誰と何の約束をしていたのかも思い出せないが。

 覚えていないということは、どうせ大したことのない用事だったのだろう。


「それでね、スキル名が分かったら、スキルの使い方を運営の人が教えてくれるのよ」


 ミンディの指差す先では、黒いローブを羽織った大人が、俺たちと同い年くらいの子どもに何かを説明している。


 ミンディの言葉に頷きながら、心の中でゴッちゃんに話しかけてみる。


(俺のスキルは、またスキルホルダーなんだよな?)


『そうじゃ。そして前例が無いゆえに使い方は誰にも分からん』


(おっ。試しにやってみたけど、心の中で考えるだけでゴッちゃんと会話できるんだな)


『儂は神じゃからのう。大体なんでも出来るのじゃ』


 だったら俺にこんな面倒くさいことをさせないで、神パワーで世界を救ってくれよ。


『聞こえておるぞ』


(話しかけなくても聞こえるのかよ!? 俺のプライバシーはどこ!?)


 口に出さなくても、心の中で話しかけなくても、考えが読まれてしまうなんて。

 プライバシーが無いにもほどがある。


『まあまあ。さすがにエッチなことを考えておるときは、聞かなかったことにしてやるのじゃ』


(聞かなかったことにするんじゃなくて、聞かないでくれよ!?)


「……フィンレー? どうしたの、ボーッとして」


 ゴッちゃんとの会話に集中していると、不安そうなミンディに肩を叩かれた。

 ミンディからしたら、突然俺が無言になってしまったわけだから、不安にもなるだろう。


「ああ、ごめん。ちょっと緊張してるのかも」


「そうよね、緊張するわよね。あたしもよ。スキルで今後の人生が決まると言っても過言ではないもの」


 ミンディは俺からの反応があったことに安心したようで、顔から不安の色を消した。

 代わりに本人の言葉通り、緊張した面持ちになった。


 スキル判定式でスキルホルダーと宣言されたことで、俺は山籠もりを決めた。

 他にもスキルによって今後の進路を決める人は大勢いるだろう。

 今後の進路を決定する上で、このスキル判定式はかなり大きな意味を持っている。


(なあゴッちゃん。まだ聞いてなかったんだけど、このスキルホルダーって能力はどうやって使えばいいんだ?)


『スキルホルダーの使い方は……』


「あっ、私の番が来たわ。行ってくるわね!」


 ゴッちゃんの説明は、ミンディの明るい声で遮られた。手を振ってミンディを送り出す。

 広場の中央に立ったミンディが、ゆっくりと石板に手を近づけていく。


 過去、ミンディのスキルは何だっただろうか。

 自分のスキルのことで頭がいっぱいで忘れてしまった。

 良いスキルだった気はするのだが。

 少しして、石板を確認した運営にスキル名を告げられたミンディは、俺に向かって大きく手を振った。


「フィンレー! あたしのスキル、解析だって! フィンレーも頑張ってー!」


『ほう。解析とは便利なスキルを引いたのう』


(ゴッちゃんから見ても便利なスキルなのか?)


『日常生活で役立つ場面の多いスキルじゃ。戦闘向きではないがのう』


(平和に暮らす人向きのスキルってことか。きっとミンディは平和に暮らすだろうからピッタリ……って、次は俺の番だ)


 ゴッちゃんとスキルの話をしていると、すぐに俺の番がやってきた。

 ミンディと同じように石板の前に立ち、石板に手をかざす。

 スキル名が表示された途端、運営がざわついた。


「これは……スキルホルダー?」


「誰かこのスキルを知ってるか?」


「分からない。初めて見るスキルだ」


 遠くにいた運営も呼ばれて近寄ってきたが、全員が首を傾げていた。


「申し訳ないが、スキルホルダーというスキルが何か知っている者を探すから、数日待ってほしい。その間、君自身でもスキルを試して使い方を模索してくれ」


「はい」


 過去にも同じことを言われた気がする。そして数日経っても何も判明しなかった。

 しかし今は神がついているから問題ない。


(で、スキルホルダーはどうやって使うんだ?)


 俺の隣で浮いていたゴッちゃんは、わざわざ俺の前に位置取りをしてから、四本の指を立てた。


『他人のスキルをファイルに収納するには、四つのことをする必要がある。一つは相手のスキルを目で見て確認。一つは本人を触る。一つは本人が判別できるような写真を撮る。最後に写真をファイルにしまう。ちなみに写真はスキル使用時に出現するカメラで撮るのじゃ』


(工程が多くないか!?)


『他人のスキルを奪う強力な能力じゃからな。そう簡単に使えてはいろいろと問題じゃろう』


 そうかもしれないが、こんなに工程が多いと、スキルの使い方を理解せずに終わる可能性の方が高い気がする。

 例えば剣聖スキルならスキル名から剣を扱うスキルだと分かるし、解析なら何かを解析するスキルだと分かる。

 それに多くの人が持つスキルなら、過去にいた同じスキルの人からの知識の積み重ねもある。

 しかし過去に前例が無く、使用するための工程が多いスキルホルダーの使用法を見つけることは、かなり難しい。


(四つを行なう順番や期限はあるのか?)


『順番は無い。ただし一つ目の行動を行なってから、二十四時間以内に残り三つの行動を行なう必要がある』


 せっかく工程を進めても、二十四時間経過したらまた一からやり直しということか。


(このスキルって世界を救うためのスキルなんだよな? こんなに条件が厳しい必要があるのか? 簡単な方が確実にスキルを奪えるだろ?)


 世界を救いたいのに、わざわざ条件を厳しくする意味が分からない。

 写真を撮るだけでスキルを奪えるようにしておけば、救世も楽だろうに。


『もしフィンレーが悪いやつだった場合の保険じゃ。スキルを使ってお前に世界征服をされては困るからのう』


(その場合は俺からスキルを没収すればいいんじゃないか? いや別に世界征服をするつもりはないけどさ)


『スキルを自在に変更したり奪ったりが出来るなら、はじめから儂が人間のスキルを剥ぎ取っておるわい』


(確かに……)


 人の手に渡ったスキルにゴッちゃんは手を出せないらしい。

 つまりこの面倒くさい工程をこなして俺がスキルを奪うしかないようだ。




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