「おおーっ! 超成長だーーーっ!!」
そのとき、広場から歓声が上がった。広場の真ん中には、ニヤケ顔の少年モーゼズが立っている。
その顔を見た途端、過去に起こった出来事が頭の中を駆け巡った。
過去の、つまり今の俺にとってはこれから起こるだろう出来事。
「……スキル判定式の帰りに、俺はあいつにボコボコにされるんだ。それで修行をする決心を固めたんだった」
『じゃあ仕返しにあいつのスキルを奪っちゃえよー』
ゴッちゃんが悪い顔をしながら俺の周りを飛び回った。
『あの子のスキルを奪って、あの子が思い上がらないようにしてあげて』
俺の周りを一周したゴッちゃんは、今度は祈るようなポーズでまた俺の周りを飛んだ。
「勝手に俺の中の天使と悪魔みたいなことをするなよ。どっちも同じこと言ってるし!」
言い方は違えど、結局はモーゼズのスキルを奪えと言っている。
『だってフィンレーはこの後、あいつに絡まれるんじゃろう? スキルを奪う絶好の機会じゃよ』
「って言われても、モーゼズのスキルを見る機会なんてないだろ」
『今、超成長と言っておったではないか。超成長は、戦うたびに強くなるスキルじゃ。つまり戦うだけでスキルを発動していると言える』
「へえ。戦うだけで一工程はクリア出来るわけか」
あとは本人を触って写真を撮ってファイルに収めるだけ。
とはいえ今の俺は、過去にモーゼズにボコボコにされた十歳の頃の俺だ。
モーゼズからスキルを奪うことなんて出来るのだろうか。
「今の俺って、剣とか魔法の能力は十歳の頃に戻ってるのか? もしかして能力は引き継がれてて無双できちゃったり……?」
『成長したお前の精神が十歳の頃の身体に入っとるだけじゃから、身体は十歳のままじゃ』
「なんだ。全部一からのやり直しか」
少し期待したのだが、そう甘くはなかった。
とはいえ、このことは先程走ったときに早く走ることが出来なかった点から予想はしていた。
この身体にはまるで筋肉が付いていないからだ。
『身体は鍛える前の状態じゃが、やり直しではないのう。身体の使い方が分かっているのは大きなアドバンテージじゃ。筋肉量は足りんじゃろうがな』
「魔法の方はどうなんだ? 術式は頭に入ってるぞ」
『術式を理解していても、魔力量はどうにもならんじゃろう。魔力も筋肉と同じく、鍛錬をして徐々に容量を増やしていくものじゃからのう』
「……なるほど。じゃあ少ない動きや少量の魔力で工夫をすればいいのか」
十歳の身体で戦うとしたら、相手の攻撃の勢いを利用したカウンター型の体術が良いかもしれない。
体術は極めたとまでは言えないが、一通り学びはした。だからカウンター型の体術も頭に入っている。
剣術の方が得意ではあるが、今回はやめておこう。きっとまだ剣を扱うには身体が出来ていないから。まともに振ることすら出来ないだろう。
そもそも剣を所持してはいないし。
「フィンレー、さっきから一人で何言ってるの?」
俺がどうやってモーゼズと戦おうか考えていると、いつの間にか近くにいたミンディが俺の肩のあたりからにゅっと顔を出した。
「近っ!? ミンディ、もうスキルの説明は終わったのか!?」
ミンディはスキル判明後、広場の端で運営から解析スキルの使い方の説明を受けていた。
一方でスキルの使用法が分からない俺は、速攻で解散となっていたのだ。
「大体のことは聞いたわ。それにスキルの詳細が書かれた説明書をもらったの。フィンレーは?」
「あー……運営が俺のスキルの使用法を知ってる人を探すから、数日待ってほしいってさ」
数日経っても判明はしないが、ゴッちゃんのおかげでスキルホルダーの使い方は把握した。
あとは実際に使用してみるだけだ。
「それならもう帰ろう。今日はママがアップルパイを焼いてくれる約束なの。フィンレーも食べるでしょ?」
「ああ、そうだな。ミンディの母さんは料理上手だったな」
しかし俺はこの後、家に帰る途中の道でモーゼズにボコボコにされた。
そのためアップルパイを食べることは出来なかった。
だが今回は、簡単にやられてやるつもりはない。
モーゼズには、スキル収納第一号になってもらうつもりだ。