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第6話


 やっちまえと言ったモーゼズが、誰よりも先に殴りかかってきた。

 でっぷりとした見た目の割に、動きが良い。


(この俊敏さは……そうか)


 スキル発現の時期には個人差がある。

 そのためスキル判定式は大抵の子どもがスキルを発現し終えている十歳で行なわれる。

 つまり、スキル判定式はあくまでも持っているスキルを明確にするだけのもので、スキル自体はすでに発現しているのだ。


 何が言いたいのかと言うと、モーゼズはきっと自分でも知らないうちに、喧嘩をしながら超成長のスキルを使用して成長していたのだ。

 まさか喧嘩っ早い性格が役に立つなんて。

 モーゼズからスキルを奪っておかないと、のちのち厄介なことになるかもしれない。

 自分に超成長のスキルがあると知ったモーゼズがどんな生き方をするかは、火を見るよりも明らかだ。


「おっと」


 飛びかかってきたモーゼズの拳を余裕を持って避けたつもりだったが、自身の足のバネが足りずに間一髪で避けた形になった。


「頭で思うよりも早めに動いた方が良いんだな。急な動きに身体がついてこない」


 青年の頃と今の筋肉量では天と地ほどの差がある。

 攻撃だけではなく回避に関しても気を遣わないといけないようだ。


「まだまだあああーーーっ!!」


 またモーゼズが殴りかかってきた。モーゼズの拳には先程よりもスピードが乗っている。


(おっ、これが超成長か)


 劇的な変化とまでは言えないが、この短時間で成長したことを考えると驚異的なスキルだ。正直、羨ましい。


(ゴッちゃん。今のでスキル観察はクリアしたのか?)


『そうじゃ。あとは相手に触って写真撮影をしてファイルに収めるだけじゃ』


 まだ結構やることがある。それなのに目の前には、取り巻きと合わせて三人の敵がいる。


 一人ずつ条件をクリアするよりも、まとめて工程を進めていった方が良いかもしれない。


(このスキルって一人ずつ条件をクリアしないといけない、みたいな制約はあるのか? 三人分のスキル観察をしてから、三人に触って、三人分の写真を撮って、ファイルに収めても平気か?)


『四つの工程をクリアさえすれば、流れ作業でスキルを集めても構わんのじゃ。フィンレー、三人分のスキルを収納する気なのか!? いいぞ、応援するのじゃ!』


 ゴッちゃんがどこからか黄色いボンボンを取り出して俺を応援し始めた。

 応援してくれるのはありがたいが、目の端にチラついて気が散るからやめてほしい。


「そうと決まれば」


 俺はモーゼズの取り巻きたちを見た。

 モーゼズは一旦置いておいて、取り巻き二人を煽ってスキルを引き出そう。

 モーゼズといつも一緒にいるのだから、モーゼズと同類に違いない。

 つまり頭に血がのぼりやすいはずだ。


「おい、取り巻きの二人! どうせお前たちも変なスキルなんだろ。だからモーゼズの取り巻きなんてやってるんじゃないのか!?」


「なんだと!? 僕のスキルはお前の役立たずのスキルとは違う!」


「でもスキルを使ってこないじゃないか。つまりハズレスキルってことだろ!?」


「ハズレスキルじゃない! 僕のスキルは戦闘向きじゃないだけだ!」


 残念。戦闘向きじゃないなら、戦いの最中にスキルを使ってはくれないだろう。


「じゃあそっちの取り巻きはどうだ!?」


「そっちの取り巻きって呼ぶなよ!? 僕のスキルも戦闘向きじゃないけどさあ!?」


 運が悪いな。三人中二人が非戦闘スキル持ちか。


(悪い、ゴッちゃん。戦闘ではモーゼズのスキルしか奪えないみたいだ)


『残念じゃのう。しかしスキルホルダーを使うところを見られたら厄介じゃから、ちゃんと取り巻きたちも消すんじゃよ。目撃者がおっては今後動きづらくなるからのう』


(神のくせに物騒なことを言うなよ!?)


 というか、殺すならわざわざスキルを奪わなくても良い気がする。

 死んだらもうスキルを使うこともないのだから。


 そんなことを考えていると、ゴッちゃんが「いいことを聞いた!」という顔をした。


『よし、フィンレー! そいつらを殺すのじゃ!』


(十歳に何をさせようとしてるんだよ!? 俺が協力するのはスキルを奪うことだけだ。殺しなんてやらないからな!)


『なんじゃ、残念。でもまあスキルを集めてくれるならいいかのう』


 ……俺がスキル集めをサボったら、ゴッちゃんは人間を減らす強硬手段に出……たりはしないよな?

 俺がその可能性に気付いて身震いをしていると、ゴッちゃんがウインクを飛ばしてきた。


『期待に添えるかは分からんが、儂、頑張ってみようかのう』


(期待してないから! 頑張らないでくれよ!?)


 神が人間を減らす未来なんて想像したくもない。

 きっと地獄絵図だ。


『まあまあ。フィンレーがちゃんと働けばいいだけの話じゃよ。それより、まずは目の前の戦闘に集中するのじゃ』


 集中力を削いでいるのはゴッちゃんなのだが……目の前の戦闘に集中するべきという意見には同意だ。

 青年期ならモーゼズたちは脅威でも何でもないが、今の俺はろくに筋肉の付いていない十歳だ。

 身体の動かし方、力の入れ方に集中する必要がある。

 最小の動きで片付けないと、身体が悲鳴を上げるだろう。

 そして目撃者を出さないようにするには、スキルを使うところを見られないように全員を眠らせてしまうのが一番簡単だ。

 眠っているなら、触られても、写真を撮られても、写真をファイルに収納されても、何にも気付かない。


(ちなみに触るっていうのは、どこを触ってもいいのか?)


『服や武器を触っても駄目じゃ。本人の肌を触るんじゃ』


(肌だな。まあ、とりあえず眠らせてからでいいか……よいしょっと)


 俺はまず取り巻きたちに近付くと、首の後ろを叩いた。

 青年の頃の俺なら軽く叩くだけで十分だが、十歳の身体なのでそれなりに力を入れて。


『ふむ。十歳とは思えぬ手刀じゃな』


 ゴッちゃんが感想を言うと同時に、取り巻き二人が地面に倒れた。


「なっ!? お前、こいつらに何をした!?」


「ちょっと眠ってもらっただけだから、心配はいらない」


 モーゼズは若干怯んだが、それでもこの場から逃げなかった。

 その勇気だけは評価したい。


「どんなズルをしたかは知らねえが、フィンレーなんか恐くねえ!」


「ズルって。普通に戦っただけなのに」


『ズルと言えばズルじゃのう。三十歳が十歳と戦っとるんじゃから』


(ゴッちゃんはどっちの味方なんだよ!? 俺も身体は十歳なんだから別にいいだろ!?)


 冷静なツッコミを入れるゴッちゃんに、俺も心の中でツッコんだ。

 そしてそんな風に言われてしまうと、途端に弱い者いじめをしている気分になってきた。


『世の中には悪い大人がいるということを教えてやるがよい。十歳に手加減をしない大人もいる、とな』


(それ、俺のことかよ!?)


 もう、とっとと終わらせてしまおう。

 これ以上ゴッちゃんに茶々を入れられないうちに、モーゼズのスキルを収納してやる。


 俺はそう決心すると、戦闘態勢を取った。


「じゃあ次はモーゼズの番な。ゆっくりおやすみ」


「お前、この俺を、馬鹿にしやがってえええーーーっ!!」


 モーゼズが飛びかかってきた。あまりにも攻撃がワンパターンだ。

 せっかく超成長のスキルを持っているのに、これでは宝の持ち腐れだ。


「よっと」


 モーゼズの拳を避け、その拳を勢いのまま斜め下方向に引っ張る。

 するとバランスを崩して止まれなくなったモーゼズが、勢いのままに地面に激突した。

 しかし気を失ってはいなかったので、取り巻きたちと同じようにモーゼズにも手刀をお見舞いした。


「身体が十歳だからどうかと思ったけど、戦闘は普通に強いな。戦い方が頭に入ってる」


 とはいえ、手刀を繰り出したせいで手がじんじんする。

 身体が出来上がるまでは、派手な戦闘はしない方が良さそうだ。


『十歳に勝ったくらいで何を誇らしげにしておる。さっさとスキルを奪うのじゃ』


「はいはい」


 ゴッちゃんは戦闘の余韻に浸らせてはくれないみたいだ。

 確かに誰に見られるか分からない。

 さっさとスキル収納を進めよう。




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