「さっきの手刀で、相手を触るのはクリアしたよな?」
『あれでオーケーじゃ。次はカメラで写真を撮るのじゃ』
「スキルホルダー」
俺はスキル名を唱えてファイルとカメラを出現させた。
『ほう。カメラの出し方は知っておったのか』
「さすがにスキル名を口に出すくらいは過去にもやってたからな。このファイルとカメラをどう使うのかはさっぱり分からなかったけど」
俺は地面に倒れたモーゼズを仰向けにひっくり返すと、カメラのシャッターを切った。
「はい、チーズ」
もちろん眠っているモーゼズは何の反応もしない。
「別に目を瞑ってても良いんだよな?」
『本人が識別できる写真なら何でもいいのじゃ』
カメラから印刷された写真には、目を瞑ったモーゼズがバッチリ写っていた。
その写真をファイルの中に入れる。
すると写真を納めた瞬間、ファイルが発光した。
そして少しすると光が消えてファイルはただのファイルへと戻った。
「……これでスキルを収納できたのか?」
『そうじゃ。何はともあれ、一つ目のスキル収納おめでとうなのじゃ!』
ゴッちゃんが嬉しそうに俺の周りでボンボンを振った。
「こいつらはどうしよっかな。このままにしておいても俺がスキルを奪ったとは思わないだろうけど、一応、記憶混濁の魔法を掛けておくか。魔力量が少ないから短期間だけの簡易的なやつだけど」
他人のスキルを奪うスキルなんて前例が無いから予想もしないとは思うが、俺と戦った直後にスキルが無くなったと気付かれたらマズいかもしれない。何らかの関与を疑われそうだ。
「うぐっ……」
「嘘だろ!? もう起きるのかよ!?」
気絶させたはずのモーゼズが呻き声を上げた。
しばらく気絶させるつもりで叩いたのに、モーゼズがタフなのか、俺が弱すぎるのか。
慌ててモーゼズの取り巻き二人も確認したが、彼らは気絶したままのようだ。
『いつから起きておったんじゃ。まさか見られてはおらんじゃろうな』
「さすがにそれは大丈夫だと思うけど……何かを聞かれた可能性はあるな」
『念のため殺しておくかのう』
「念のためで人殺しはごめんだ」
俺は再度モーゼズの首に手刀をお見舞いすると、モーゼズの額に手を当て、記憶混濁の魔法を掛けた。
これで万が一スキルを奪う話を聞かれていたとしても、はっきりとは思い出せないはずだ。
それどころか俺と戦ったことすら、思い出すことが出来ないだろう。
「あー……もう魔力切れか」
本当はこの魔法を三人全員に掛けるつもりだったが、今の俺の魔力量では一人に掛けることがやっとのようだ。
まあ三人の中でリーダー格のモーゼズが何も覚えていないとなれば、残りの二人も勝手に俺との戦闘の話を広めたりはしないだろう。
戦闘中に気を失ったことはモーゼズたちの敗北を意味するから、空気を読んで黙っておくはずだ。
モーゼズが負けた話を広めたりなんかしたら、あとでモーゼズに何をされるか分からないのだから。
『禁断魔法をずいぶん気軽に使用するのう』
ふと見ると、モーゼズに記憶混濁の魔法を掛けた俺のことを、ゴッちゃんが目を丸くしながら見つめていた。
「これ、禁断魔法なのか? 知らなかった」
『記憶混濁の魔法が一般的に使用されるなんて、どんな世紀末じゃ』
そうか、これは禁断魔法だったのか。使用がバレたら後々面倒くさいことになるかもしれない。
次からはあまり使わないようにしよう。
「フィンレーーー! スキル判定式の運営の人を連れてきたわーーー!!」
遠くからミンディが大きく手を振りつつ走ってくる。
後ろからは黒いローブを羽織った大人が着いてきているようだ。
『間一髪じゃったな。スキル判定式の運営にスキルホルダーの能力を見られたら、それこそ面倒なことになっておった』
本当にその通りだ。ゴッちゃんにスキル収納を急かされて助かったかもしれない。
「……でもこの状況、どう説明しよう?」