息を切らせながら俺のもとへと走ってきたミンディは、地面に倒れる三人を見て困惑していた。
まさか、こうなっているとは思ってもみなかったのだろう。
「私がいない間に何があったの?」
(俺が強いってバレない方が良いよな?)
『この頃のフィンレーは強くなかったんじゃろう? いきなり三人相手に勝つようになるのは、儂ならおかしいと思うかのう』
ミンディは、スキル判定式の前にも俺の様子がいつもと違うことに気付いていた。
さすがは幼馴染だと嬉しくもあったが、これ以上怪しまれることは避けたい。
「あー、その、サメが……」
「サメが現れたの!?」
ミンディは信じてくれそうだったが、ミンディの後からやってきた運営の人は怪訝そうな顔をしている。
「じゃなくて、熊が……」
「熊が現れたの!?」
『熊にしては外傷が無さすぎるじゃろう』
これもダメか。
俺は考えた末に、人間の仕業にすることを決めた。
「通りすがりの正義の味方が助けてくれたんだ」
『ぷーっくすくす。通りすがりの正義の味方とは誰のことかのう』
俺の苦しい言い訳を聞いたゴッちゃんが、俺のことを指差しながらゲラゲラ笑っている。
(うるさいなあ!? 人のことを指差しちゃいけないんだぞ!?)
『それは人間の間でのマナーじゃろ。神は別にいいのじゃ』
こんなときばかり神を持ち出すのはズルい。
いつもは神と呼ぶなと言ってくるくせに。
『呼び方と在り方はまた別の話じゃ。儂を神として崇めることは一向に構わんのじゃ』
(崇めようにもゴッちゃんの神らしいところは全然見てないんだけど……)
「……ねえ、フィンレー。その正義の味方さんはどこ?」
俺の話に出た正義の味方を探して辺りをきょろきょろと見回していたミンディが質問をした。
連れて来られた運営の人も、大した外傷も無いまま気絶している三人に困惑気味だ。
「えっと、正義の味方は、名前も言わずに行っちゃったよ。名乗るほどの者じゃないって」
「そうなんだ! 正義の味方っぽい振る舞いね」
ミンディはすんなりと正義の味方の話を信じてくれた。
先程からミンディはすぐに俺の話を信じてくれる。
考えてみたらミンディはまだ十歳だ。簡単に騙されても不思議ではない。
しかし大人であるスキル判定式の運営はそうはいかない。
三人を攻撃した悪者が、まだ近くにいるのではないかと俺に聞いてきた。
子どもを攻撃するなんて、正義の味方どころか悪者だと憤慨しながら。
だから俺は、可愛い十歳に見えるよう最大限のぶりっ子をしつつ答える。
「悪者じゃないよ。正義の味方だよ。俺が三人にいじめられてたから、助けてくれたんだ。なんかこう、睡眠魔法みたいなものを使って三人を眠らせたんだよ」
「睡眠魔法、ですか?」
スキル判定式の運営は、三人の状態を確認して、殴られたり蹴られたりした痕が無いかを探している。
……首の後ろを叩いた痕は残っているだろうか。変な痕が見つかる前に退散した方が良いかもしれない。
「ミンディ! 早くミンディの家にアップルパイを食べに行こう!」
そう言って、俺はミンディの手を握って走り出した。
引っ張られたミンディは、流れのまま一緒に走ってくれた。
「待って、君。ここで何があったのか詳しく……」
後ろでスキル判定式の運営が叫んでいるが、無視をして走り続ける。
子どもの足では全力の大人には追いつかれてしまうだろうが、きっとあの人は倒れた三人を置き去りにして俺たちを追いかけては来ないだろう。
「フィンレーから手を握ってくれたのは初めてかも」
小さな呟きが聞こえて横を見ると、ミンディが嬉しそうな表情を俺に向けていた。
とっても可愛い。
「そうだったっけ?」
「うん。また繋ごうね!」
…………ハッ!?
俺は今、念願だった女の子と手を繋ぐ夢を叶えている!?
相手は子どもだが、今は俺も子どもになっている。
つまり、同い年の女の子と手を繋ぐ青春を繰り広げているのだ!
「青い春、最高ーーーっ!」
右手に伝わるミンディの体温を感じながら走り続けた。
今ならどこまでも走っていける気がした。