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第10話


 ミンディとミンディの母が二人で話し始めたので、暇になった俺は、気になっていたことをゴッちゃんに聞くことにした。


(なあ、ゴッちゃん。スキルホルダーって能力は、戦闘には使えないんだよな?)


『使えるぞ?』


(使えるの!?)


 どうせ使えないだろうと軽い気持ちで聞いたのに、ゴッちゃんからは予想外の言葉が返ってきた。


『スキルホルダーは、ファイルに収納したスキルを使用することが出来るのじゃ』


(何だそれ!? 最強じゃないか!?)


『ただしスキルを使ったら、ファイルからスキルが消えて元の持ち主に戻るから、また収納し直さないといけないのじゃ』


(ああ、そういうマイナス面もあるのか。そりゃそうだよな。無制限に使えるわけはないよな)


 ゴッちゃんがふわふわと宙に浮きながら肩をすくめた。


『様々な能力を無制限に使えたら、ぶっ壊れ性能も良いところじゃ』


(じゃあ収納したスキルは使わない方が良いな。収納し直すのは面倒くさいもんな)


『スキルには便利な能力が多いが、スキルを使わずとも解決できる問題も多い。特にお前は一度剣と魔法を極めとるんじゃから、どうとでもなるじゃろう』


(そうだと願いたいな)


 俺とゴッちゃんの話が一区切り付いたとき、ちょうどミンディとミンディの母の話も終わり、別の話題に移り変わるところだった。


「あとね、帰りに正義の味方が現れたの!」


「正義の味方?」


 あ。この話題はマズい。


「広場から帰るときにね、モーゼズたちが絡んできたの。そうしたら正義の味方が助けてくれたのよ。ね、フィンレー!」


「う、うん。でも名乗らずに去っちゃったんですよ。名乗るほどの者じゃないって」


 俺はミンディの話を肯定しながらも、また正義の味方の素性については何も知らないというスタンスを取った。

 詳細を聞かれるとボロが出るような気がしたからだ。


「どんな人だったの?」


「あたしは見てないよ。急いで大人の人を呼びに行ったから。あたしも見たかったなあ、正義の味方」


 ミンディの母が俺のことを見たので、急いで答える。


「俺も顔は見てないんです。正義の味方は目深にフードを被ってましたから。ササッとモーゼズたちを眠らせて去っていきました」


「……その人、悪い人じゃないかしら。道の真ん中で子どもを眠らせて放置するなんて」


 当然の意見だ。

 しかしこれには純粋なミンディが答えた。


「ママ、モーゼズたちはただの子どもじゃないよ。三人でフィンレーをいじめた、いじめっ子たちなの。いじめっ子を懲らしめるのは悪い行為じゃないでしょ?」


「うーん。でも強制的に眠らせるのはどうなのかしら。大人ならきちんと話をして、子どもたちを諭さないと……」


『ごもっともな意見じゃな。フィンレーと違って大人じゃのう』


(うるさいよ、ゴッちゃん)


 とはいえ、その正義の味方は実際には存在しない人物だから、深く考えるだけ時間の無駄だ。

 これ以上無駄な話にミンディの母を付き合わせるのは悪いな、と考えていた俺を助けたのは、またしてもミンディの言葉だった。


「ねえママ。まだアップルパイは焼けないの?」


「そうだったわ。そろそろ焼けるはずよ。ちょっと見てくるわね」


 ミンディの母は席を立ってキッチンへと向かった。

 そして少しすると、リビングに大きなアップルパイを持って戻ってきた。


「うわあ、美味しそう! ママ、天才!」


 こんがりと焼き色の付いたアップルパイを見て、ミンディが歓声を上げた。


『美人で優しくて料理上手だなんて、奇跡のような人妻じゃのう』


(その人妻って呼び方やめてくれない? なんか生々しいから)


『人妻は、儂の好きなワードトップテンに入る言葉なんじゃがのう』


 すごく良くない単語が並んでいそうなランキングだ。

 あまり触れない方が良いだろう。


「すごいですね。店で売ってるアップルパイよりも美味しそうです」


「ふふっ、ありがとう。たくさんあるから好きなだけ食べてね」


 皿に取り分けられたアップルパイを口いっぱいに頬張る。

 ミンディの母手作りのアップルパイは、美しい見た目を裏切らない美味しさだった。


 ふと横を見ると、ミンディがわくわくした様子で俺のことを見つめていた。


「どうかした?」


「フィンレー、知ってる? 仲良しな二人は、パイを食べさせ合うのよ」


 そう言ったミンディが、アップルパイを乗せたフォークを俺の顔の前に差し出した。


 まさか、まさかまさかまさか。


「あーん、ってこと!?」


「そうよ。はい、フィンレー。あーん」


「あ、あーん」


 ミンディによって、口の中にアップルパイが運ばれた。

 口を閉じ、アップルパイを堪能する。


 俺の口からフォークを引き抜いたミンディは、満足げな表情で俺のことを見つめた。


「おいしい?」


「とっても、おいしい!」


 甘くて優しい幸せの味がする!

 幼馴染に食べさせてもらうアップルパイ最高!!

 俺の人生で、可愛い女の子にアップルパイを食べさせてもらえる日が来るなんて思ってもみなかった。

 人生をやり直してよかったーーーーー!!


 ……って、あれ。

 もしかして過去にも道中でモーゼズたちにやられなかったら、このご褒美が待っていたのだろうか。

 超成長スキルを奪ったことを少し可哀想に思っていたのだが、過去の俺をボコボコにしてミンディからのあーんの機会を奪ったモーゼズ、許すまじ。

 スキルを奪って大正解。


『まったく。子どものあーんごときに一喜一憂しおって。本来のお前は、ミンディちゃんよりもずっと年上じゃろうに』


(山籠もりしてたから、俺の感性は十歳で止まってるんだよ。あーんなんて、一大イベントに決まってるだろ!?)


『……可哀想にのう』


 ゴッちゃんが同情的な目を向けてきたが、そんな視線は無視をして、今度は俺からミンディにあーんをした。


 幼馴染とのあーんに勝る幸せ無し!

 あーんを思い付いた天才に、心からの喝采を!




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