あれから二年。
俺は魔法学校の入学試験を受ける年齢になった。
エフォート魔法学校の入学試験には、多くの子どもたちが集まっている。
ミンディ曰く、入学試験の合格率は五十パーセント程度らしい。
つまり集まった子どもの半分は、入学できずに帰ることになってしまう。
そのためか、誰も彼も緊張した面持ちをしている。
この学校は名前に魔法と付いている通り、魔法を中心とした授業を行なうらしい。
さらにこの世界の情勢や歴史経済を学ぶ授業、剣術体術の授業もあり、生きていく上で必要なすべてのことを学べる、とミンディが言っていた。
ちなみに俺はミンディが通いたいと言うからこの学校を選んだ。
正直なところ俺はどこの学校に通っても良かった。
だから、せっかくならミンディと同じ学校にしようと思ったのだ。
「ここにいる子どものうちの半分しか受からないなんて厳しすぎない? 全員合格にしてくれればいいのに」
「実力の無い子が下手に合格すると、入学してからが大変だと思うぞ。入学試験で落とすのは、ある意味優しさだよ」
「優しさって……そうかもしれないけど……普通に教えられる人数の上限の問題でしょうね」
「ああ、上限はありそうだよな。すごい人数の子どもたちが試験を受けに来てるみたいだから」
この二年の間に、俺は子どもの身体に順応した。もう自身の能力と思考の齟齬は無い。
出来ることと出来ないことはしっかりと把握した。
子どもの身体に順応した後は、毎日筋トレを行ない、剣を振るうことが出来る腕力をつけた。
とはいえ、振るう剣は子ども用の軽いものだが。
魔法に関しても、魔力量自体は少ないが、少ない魔力を用途に合わせて自在に操ることが出来るようになった。
現在は少しの誤差も出さずに、必要最低限の魔力で必要とする魔法を使うことが出来る。
「もうすぐあたしたちの番よ。緊張するわね」
俺の隣に立つミンディは、緊張しているのか動きがぎこちない。
「ミンディなら大丈夫だよ」
「そうかしら。不安だわ」
二年間、隣でミンディを見てきたが、ミンディは熱心に魔法の練習をしていた。
おかげで十二歳にしては、ミンディの実力はかなりのものになっている。
入学試験で落とされることはまずないだろう。
「フィンレーはずいぶんと落ち着いてるわね。不安じゃないの?」
「不合格だったら不合格だったで、学校に通わずに学べばいいからな」
「魔法を独学で学ぶのは難しいわよ。学校で教わった方がずっと効率が良いはずだわ」
「それでも時間をかければ極められるさ」
毎日の修行はかなり激しいものにはなるが、青年の俺はそれを成し遂げた。
いや、師匠がいたから独学ではないが。
その師匠も学校には通ったことが無いらしい。
俺と同じく師匠を見つけてすべてを学んだと言っていた。
師匠の経歴に関して詳しいことまでは分からないが、師と呼べるような人と出会うことが出来れば、学校に通わずともすべてを極めることが出来ると言える。
師匠と俺の二人がそうなのだから。
「別にあたしは極めなくてもいいのよ。ただ良い職に付けるだけの能力が手に入れば」
「そんなの、解析スキルがあれば引く手あまただろ」
求職の点で言えば、解析スキル持ちはどの職業でも喜ばれる。
機械を扱う職業はもちろん、物の質を見極める古物商や、入国者の持ち物を検査する入国官、呉服店やレストランでも解析スキル持ちがいると助かるだろう。
「確かにあたしは解析スキルを持ってはいるけど、スキルだけに頼ってたらスキルが使えなくなったときの潰しが効かないじゃない。スキルには判明してない要素が多いんだから、いつどうなるか分からないわ。町でも突然スキルが無くなる伝染病が流行ったでしょ?」
「潰しって……十二歳の口から出る言葉じゃないだろ」
二年の間に、ミンディはとても大人びてしまった。
女の成長は早いと言うが、早すぎて俺だけ置いていかれた気分だ。
本当は俺の方が二十歳年上のはずなのに。
ちなみにこの二年の間に、ゴッちゃんに早くミンディのスキルを奪えと何度も催促されたが、聞こえない振りをして逃げ回っている。
個人の感情でスキルを奪う奪わないを決めるなと注意もされたが、「じゃあミンディの代わりに他の人のスキルを奪う」と言って、ミンディ以外の人のスキルを奪って誤魔化してきた。
「そういえばフィンレーのスキル、結局どうやって使うのか分からなかったわね」
「ああ、そうだな」
実際のところはゴッちゃんのおかげでスキルホルダーの使用法は判明しているし、この二年で結構使ってきた。もちろん入学試験で披露するつもりはないが。
「でもフィンレーは剣も魔法も得意だから、きっと試験に受かるわ」
俺に励まされたお返しとばかりに、今度はミンディが俺のことを励ましてくれた。
本当に、ミンディは可愛くて優しくてパーフェクトな幼馴染だな!
幼馴染特権でキスとかさせてくれないだろうか!?
『そんな幼馴染特権は聞いたことが無いのじゃ』
ゴッちゃんが、呆れたように俺の顔の横で肩をすくめた。
(聞いたことが無いから絶対に無い、とは言い切れないだろ。俺のスキルホルダーだって誰も聞いたことが無いのに存在してるんだから。幼馴染チューだって、無いとは言い切れない!)
『儂、フィンレーのような幼馴染は嫌じゃ』
(ゴッちゃんとは、たとえ幼馴染だったとしてもキスしようだなんて考えないから安心してくれ。俺にも選ぶ権利がある)
『儂だって、ごめんじゃーーーっ!!』
ゴッちゃんは自身の口を押さえて、吐くようなポーズを取った。そこまで嫌がらなくてもいいのに。