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第12話


 二年経ってもゴッちゃんは相変わらず俺のそばにいて、こうしてちょくちょく話しかけてくる。

 なんかもう神と言うよりマスコットキャラクターみたいな感覚だ。


「そうだ、ミンディ。俺のスキルのことは、誰にも言わないでほしいんだ」


 俺はふと思い出してミンディに告げた。

 俺のスキルがスキルホルダーだという事実が、学校内で知れ渡ることは避けたい。

 生徒たちから次々とスキルが消えたら、スキルホルダーという名称と関連付けて俺のことを怪しむ者が出てくるかもしれないからだ。


「それは別にいいけど、すでに情報は学校側に行ってると思うわよ」


「だとしても、これ以上は広めたくないんだ。同級生に無能スキルを持ってるって知られたら、ナメられちゃうだろ?」


「ナメられるって……ああ、モーゼズの件があったわね。分かったわ。フィンレーが望むなら誰にも言わないわ」


 モーゼズは俺のスキルをナメたから襲ってきたというよりも、ミンディと俺の関係に嫉妬をして襲いかかってきたのだと思うが、まあいいか。

 結局あの後もモーゼズがミンディに好かれることはなく、数回の告白と玉砕の末、ついにモーゼズはミンディとの恋を諦めた。


 それはさておき、ミンディは真面目だからきっと俺の秘密を守ってくれるだろう。

 これで当面の間は、俺は自分のスキルを隠すことが出来るはずだ。


「それにしても……はあ」


 ミンディが、大きな溜息を吐いた。


「入学試験に合格できなかったら、どんな顔をして家に帰ればいいのかしら。ママはしばらく会わないつもりで送り出してくれたのに」


「入学試験に合格したら、夏休みまで寮生活だもんな」


 寮生活をするために、入学希望者たちは大荷物を持って入学試験にやって来ている。

 ミンディと俺も例外ではない。


「不合格になって、大量の荷物を家に持って帰るのは恥ずかしいわ。試験と入学を別の日にしてくれればいいのに」


「俺たちみたいに家が学校に近いやつだけじゃないだろ。何日もかけてここまで来たやつは、試験と同じ日に寮に入りたいだろうよ。一旦家に帰って出直すのは時間が無駄すぎる」


「確かにそうね」


 それに家が近いとは言っても、俺たちだって移動に丸二日はかかっている。

 また家に帰って出直すなんて、俺はごめんだ。

 長時間の馬車移動で身体がバキバキになるし、馬車だって無料ではない。

 ちなみに学校までは、ミンディの父と俺の父が一緒に着いて来てくれた。

 二人は、今も離れた位置から入学試験を見守っている。

 俺たちが無事に入学試験を合格したことを見届けてから、家に帰る予定だ。

 なお入学試験に不合格だった場合は、父たちと一緒の馬車で帰ることになる。


「どうしよう。試験に落ちたら、ここまで連れて来てくれたパパに合わせる顔が無いわ」


「ミンディなら大丈夫だって。気楽にやりなよ」


 なおも緊張している様子のミンディの背中を、気合いを入れるようにバシッと叩いた。




 子どもたちの列が、案内役によって次々と捌かれていく。


『分かっておるな、フィンレー。もてはやされたいからと言って全力を出すのはダメじゃ。目立ち過ぎるからのう』


(もちろん全力は出さないけど、どのくらいの力を出せば合格なんだろうな)


『儂に聞かれてものう。儂、試験管じゃないし』


 頼りにならないゴッちゃんと会話をしていると、案内役に試験会場へと案内された。


「こちらの列の後ろに並んでください。受験票は試験の前に試験管に渡してくださいね。試験内容は的当てです」


 俺たちは的の前に出来た長い列の一番後ろに並んだ。


「お姉ちゃんの頃も入学試験は的当てだったんだって。伝統なのかな?」


「的当てか」


 合格するためには的の真ん中に当てておいた方が良いだろう。

 ……いや、いっそ的ごと吹き飛ばすか?

 それなら間違いなく合格になるはずだ。


『フィンレーよ、分かっておるじゃろうな。目立つと動きづらくなるのじゃ』


 的を吹き飛ばしたらみんな驚くだろうなとニヤニヤする俺に、ゴッちゃんが釘を刺した。


(……分かってるよ。合格ラインちょっと上くらいの成績で受かればいいんだろ)


 的ごと吹き飛ばす案はナシのようだ。

 ちょっとやってみたかったのに。残念。


『とはいえ、絶対に受かるんじゃぞ。魔法学校なんてスキルの狩り場のようなものじゃ』


(狩りって言うなよ。実際はそうだけどさあ……はあ。俺はこれから、希望あふれる生徒たちのスキルを奪わないといけないのか)


 入学希望者たちは、緊張と希望に満ちた顔で入学試験に挑んでいる。

 俺はこれから、あの純粋な子どもたちからスキルを奪わなければならない。

 世界を救うためとはいえ、心が痛む。


「私の番ね」


 的の前に立ったミンディは、意気揚々と風魔法を的に当てた。

 しかしあまりにも風魔法が強かったため、的が折れて吹き飛んだ。


「ミンディが的を吹き飛ばすのかよっ!?」


 俺がやりたかったのに!

 いや、ゴッちゃんに止められたから、我慢するつもりだったけど!


『やるのう。ミンディちゃんは魔法を極めたら大物になりそうじゃ』


「君は特進科だ」


 試験官が迷うこともなく告げた。

 入学希望者全員を見てからではなく、この場で合否が決まるのか。

 まあミンディは的を吹っ飛ばすほどの魔法が使えるのだから、文句なしの合格だろう。


 それにしても。これまでミンディは一体何に怯えていたのだろう。

 何をどうしたって合格するに決まっているだろうに。


 ふと前を見ると、試験官が慣れた様子で次の的を用意していた。

 意外と的を吹っ飛ばす入学希望者は多いのかもしれない。


(次は俺の番か。どうせならミンディと同じクラスが良いな)


『諦めるんじゃな。特進科に進んだら確実に注目される。お前が目指すべきは、普通科じゃ』


(普通科ってことは、的は吹き飛ばさずに魔法を当てる程度に留めればいいんだな)


『的の真ん中には当てるんじゃぞ。念のため』


 俺は水魔法の呪文を唱えると、的目掛けて放出した。

 狙い通り、水魔法は勢いよく的の中心に命中した。


「うん、君は普通科候補だね。入学できるかどうかは全員の試験が終わってから判明するから、合格発表のときにまたここに来てね」


 さすがに普通科は入学希望者全員の試験が終わってから合否を決めるらしい。

 それを思うとミンディは相対的なことを気にするまでもなく合格なのだから、かなり優秀だ。


「フィンレーが合格だったとしても、私とフィンレーはクラスが別れちゃうんだ……」


 俺の試験結果を聞いたミンディが、寂しそうな声を出した。




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