入学希望者全員の試験が終わってしばらくすると、合格者の受験番号が掲示板に貼り出された。
俺の受験番号も書かれていたため、俺も無事にこの学校の生徒になることが出来たようだ。
「合格者は……ここで待機か」
合格発表後に通された会場には、たくさんの子どもたちがいた。
誰も彼もが大きな荷物を持っているから、全員が入学試験を受けた新入生なのだろう。
「うわあ。狭い空間に人間がうじゃうじゃいる!」
『変な感想じゃのう』
俺の言葉に相槌を打ったのは、他の新入生ではなく、ゴッちゃんだった。
ミンディがいたらミンディも反応してくれたのだろうが、あいにくミンディは別の説明会場に割り振られてしまった。
(仕方ないだろ。こういう場所に来たのは初めてなんだから。もっと広い場所に集まればいいのに)
山籠もりをする前も、もちろん山籠もりをした後も、こんなに人口密度の高い場所には入ったことがなかった。何と言うか……酸素が薄い気がする。
『酸素が薄いとは言っても、高山よりは濃いじゃろ』
(それはそうだけど、ここは町なのに変な感じだ)
俺がゴッちゃんと心の中で会話をしていると、会場の端から嫌な声が聞こえてきた。
「わたくしに逆らう気ですの?」
「私たちのことを舐めてるわけ?」
「あんた、弱いくせに生意気だね」
「い、いえ、決してそんなつもりは……」
会場の端では、水色の長い髪をした女子生徒に、気の強そうな三人の女子が詰め寄っている。
気の強そうな三人の方は、ピンク色の髪に、深緑の髪、紫の髪で、示し合わせたように全員が腕を組んでいる。
『お? 可愛いおなごが集まっておるのじゃ』
(うん、可愛い。水色の髪の子が特に)
『フィンレーは儂と気が合うのう。でも儂はピンク色の髪のおなごも好みじゃ。意地悪なおなごからしか得られない栄養素が摂取できそうなのじゃ』
(なんだよその栄養素……って、今ゴッちゃんの趣味はどうでもいいんだよ!)
俺は彼女たちに近付くと、明るい声で挨拶をしてみた。
「こんにちは!」
「あ、えっと、こんにちは」
俺の挨拶に応えてくれたのは、水色の髪の女子生徒だった。
ずっと聞いていたくなる癒し系の声をしている。
「俺はフィンレー。君は?」
「わ、私はリリー、です」
「君は普通科? 特進科?」
「ふ、普通科です。ここにいるのは、全員が普通科の新入生です」
先程も思ったが、同学年に結構な人数の生徒がいるようだ。
さらに特進科は別にあるというのだから、この魔法学校はかなり規模が大きい。
『儂には大きな学校には見えないのう。むしろ小さな学校だと思うのじゃ。やっぱりフィンレーは世間知らずじゃのう』
(これで大きな学校じゃないのか!? 人間っていっぱいいるんだな……)
こんなに人間がいるのに、これで規模の小さな学校だなんて。
俺は井の中の蛙だったようだ。
「じゃあリリーは俺と同じ普通科なんだな。一緒のクラスだといいな」
「普通科は二クラスだと聞いたので……い、一緒になるかもしれません」
『やっぱりのう。普通科が二クラスなんて、人数の少ない学校じゃ』
(二クラスって少ないのか!? さらに特進科もあるのに!?)
『特進科が普通科よりも人数が多いということは考えにくいから、全部で三クラスかのう。小さな学校じゃ』
俺が自身の認識と現実とのギャップに驚いていると、リリーががばっと頭を下げた。
「あの、その、ありがとうございます!」
「ありがとうって、何が?」
「いえ、絡まれているところを助けていただいたので」
何に対して礼を言われているのか分からずに聞くと、リリーは、俺がリリーと話し始めたことで去っていった三人の女子生徒を横目で見た。
「ああ、そのことか。でも何で絡まれてたんだ? まだ初日だろ?」
「それが、その。私の的当てが酷い結果だったので、それを見ていた人たちに馬鹿にされてしまって……」
程度が低すぎる。あんな的当てだけで、一体何が分かるというのだろう。
「そんなの、授業を受けるうちに逆転されるかもしれないのにな」
「それは……どうでしょう。私は魔力が弱いので」
「だとしても、他の面で才能があるかもしれないし、これから魔力量が爆発的に増加するかもしれない。それに魔力が弱いからって馬鹿にしてもいいわけじゃないだろ」
魔力が弱くても、体術や剣術を極めれば戦闘面で引けは取らない。
それに戦闘職に就かないのであれば、魔法を使う必要すらない。
たとえば町のパン屋さんは魔力が弱くても何も困らない。
『と言うか、ここにいるということは、あの三人も普通科じゃろう? 特進科に入れなかったくせに威張って恥ずかしくないのかのう』
(成績のことはあんまり言ってやるなよ。でもまあ、その通りだな)
特進科に入れない実力なのに、普通科の中で魔法が得意だと威張り散らしているのは滑稽だ。
俺がいじめっ子三人を眺めていると、くいっと服の裾が引っ張られた。
「……あの、私もフィンレー君と一緒のクラスになりたいです。フィンレー君は勇気があってカッコイイので」
リリーが、照れながらも嬉しいことを言ってくれた。
これは学校生活が楽しくなりそうだ。