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第17話


「あっ! 木の上にボールがあります!」


「本当だ……って、早いな!?」


 森に入るなりリリーがボールを見つけたが、ボールはあっという間に木を登った生徒の手の中に収まってしまった。


「じゃああっちです。取りづらそうですが、岩の間にボールが……」


 このボールもすぐに、岩を砕いた生徒に取られてしまった。


「また先を越されたな」


「みなさん、行動が早いですね」


「ああ。見つけやすい場所にあるボールは早さ勝負になるな。素早く動けるスキルのあるやつが有利だ」


 俺一人ならスキルではなくただの脚力で素早く動くことが出来るが、リリーが一緒なのでそれはやめておく。

 俺が一人で取ってきたボールを渡されても、リリーはきっと遠慮をしてしまうだろう。


「それなら見つけにくい場所にあるボールを探した方が良いですね」


「あの洞窟はどうだ。いかにもボールが隠されていそうじゃないか?」


 俺は森の端にある、小さな洞窟を指差した。

 二人で洞窟に近付き、中を覗く。


「しまったな。見つけるにしても暗くて何も見えない」


 暗さのせいか、洞窟には他の生徒が近付いてこない。

 光魔法を使えば明るくすることも出来るが、まだ光魔法を使える新入生が少ないのだろう。

 もちろん俺は光魔法が使えるため、明るくすることも出来るが……と考えたところで、リリーが口を開いた。


「問題ありません。私には見えますから」


「え、そうなの?」


 もう一度、洞窟の中を見る。洞窟の中は何度見ても真っ暗で、光が無いことには何も見えそうもない。

 俺がリリーの発言に首を傾げていると、リリーが恥ずかしそうに告げた。


「私、暗視のスキルを持ってるんです」


 リリーは俯きながらもじもじとしている。


 なんだ? 何か困るようなことがあるだろうか。

 むしろ今の状況は誇らしい顔をしていてもおかしくないと思うのだが。


「暗視スキルなんて便利だな」


「そうでもないです。使える機会はそう多くはありませんから。いわゆるハズレスキルです」


 リリーは自身のスキルが暗視だということに、劣等感を抱いているようだった。

 魔力が弱いことを馬鹿にされたように、スキルが暗視であることも誰かに馬鹿にされた経験があるのかもしれない。

 そしてきっと、そのせいでリリーは自信を失ってしまったのだ。


 よし。まずはリリーに自信をつけてもらおう。

 そして授業でどんどん活躍できるようになってもらおう。

 少なくとも、俺から見たリリーは、決して劣ってなどいないのだから。


「ハズレスキルじゃないだろ。現に今、役に立ってるからな」


「……ありがとうございます!」


 光魔法を使うのはやめておこう。

 今ここでリリーの暗視スキルが役に立てば、リリーはもっと自分に自信を持ってくれるはずだ。

 自分の力で課題をクリアすることで、リリー自身に自分の力を信じてもらうんだ。


「俺には見えないんだけど、洞窟の中にボールはあるか?」


「ええと……あっ、ボールがあります! あっちにも、こっちにも」


 どうやら洞窟の中には、複数のボールが配置されているらしい。


「回収できそうな位置にあるか?」


「はい。今、取って来ますね!」


 洞窟の中から殺気は感じられない。小さな虫はいるだろうが、リリーが一人で入っても問題はなさそうだ。

 そのため俺はリリー一人にボールの入手を任せることにした。

 少しの間、洞窟の入り口で待っていると、リリーがボールを持って洞窟から出てきた。


「ボールを持って来ました!」


「おおっ! ケガはしてないか?」


「大丈夫です。洞窟の奥に猫がいたので驚きましたが、尻餅をつきはしませんでしたから」


 洞窟の奥には虫だけではなく猫がいたのか。

 気付かなかった。


「それは誰でもビックリするよ。洞窟の奥に猫がいるとは思わないし」


「ええ。しかも猫は本物の猫じゃなくて石像だったんですよね。石像に驚いて尻餅をついていたら、おっちょこちょい過ぎますよね」


 本当に転ばなくて良かったです、とリリーが笑った。


『ドジなおなごは可愛いのじゃ。ゆえに転んでも全く問題はない』


(それはゴッちゃんの好みの話だろ)


『フィンレーはドジなおなごが嫌いなのか?』


(好きか嫌いかで言ったら好きだけどさ)


 しっかり者の女の子も好きだけど、ドジな女の子もそれはそれで好きだ。

 そもそも女の子はみんな可愛いから好き。


「じゃあ必要なボールはあと一つか」


 俺はボールの話をすることで、女の子の好みの話を頭から追い出した。


「いいえ。もう一個、取って来ました。これで、二人で二つのボールです」


 リリーが懐から二個目のボールを取り出した。

 これには正直、驚いた。

 このボールを森の入り口に置かれた俺とリリーの箱に入れれば、課題完了だ。


「さすがだな! リリーさまさまだ!」


「えへへ。お役に立てて良かったです」


 俺はリリーの服に付いた砂埃を払ってから、一緒に歩き出した。

 今戻ったら、だいぶ自由時間があるはずだ。自由時間には何をしよう。

 リリーと一緒にお喋りするのも良いし、特進科クラスにいるミンディを見に行ってもいいかもしれない。




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