しかし、そう簡単に課題は達成できないようだ。
森の入り口に戻ろうとする俺たちを、パトリシアとその友人ルナが待っていたのだ。
二人に、俺たちが洞窟内を捜索しているところを見られていたのだろう。
「おーっほっほっほ。待っていましたわ!」
「ラッキー。ボールを二個も持ってる!」
パトリシアとルナが、俺たちの持つボールを見ながら嬉しそうな声を上げた。
俺たちからボールを奪うつもりなのだろう。
「そのボール、わたくしたちにくださらない?」
「ほら、ちまちまボールを探すのって面倒くさいじゃない?」
予想通りだ。しかしボールを渡すことは出来ない。
このボールはリリーの自己肯定感そのものだ。
ボールを奪われたら、リリーの自己肯定感まで奪われてしまう可能性がある。
そんなことはさせない!
「これはリリーが取って来てくれたボールだ。渡せない」
俺がハッキリと断ると、二人はターゲットをリリーに変更した。
「リリー、わたくしたちにボールをくれますわよね?」
「リリーは良い子よねー?」
パトリシアとルナは笑顔を作っているが、これは脅しだ。
自分たちが笑っているうちにボールを渡せと言いたいのだろう。
そういう授業とはいえ、あまりにも横暴だ。
せめて脅しではなく、戦って奪い取ってほしいものだ。
俺が二人に言い返そうとしたところで、リリーが絞り出すような声を出した。
「いっ、嫌です! せっかくフィンレー君の役に立てたのに、このボールを失ったら、私はまた足手まといになってしまいます!」
二人が恐いだろうに、よく言い返した!
しかしリリーは、今にも泣き出しそうな顔をしている。
『「また」のう。リリーちゃんは足手まといとか役立たずとか言われながら、育ったのかもしれんのう』
ゴッちゃんが悲しそうな目でリリーの周りを飛んだ。
良くない環境で育ったことも、リリーに劣等感を抱かせる原因なのかもしれない。
(それならなおさら、自分に自信を持ってもらえるよう、今回はリリーに成功体験をさせないと!)
『そうじゃのう』
俺は自身の拳を握り締めると、リリーの前に立った。
「フィンレー君……?」
「もしかして、わたくしたちに逆らう気ですの?」
「今、素直にボールを渡すなら痛めつけないわよ?」
ボールを渡そうとしない俺たちの反応に、パトリシアとルナはイラついているようだった。
顔を歪め始めた二人に、俺は強く言い放つ。
「それでも、ボールは渡さない!」
パトリシアとルナは互いに顔を見合わせてから、俺たちのことを見た。
「なら、手加減はいりませんわね」
こうして、パトリシアとルナはボールを、俺はスキルを奪うための戦いが始まった。