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第18話


 しかし、そう簡単に課題は達成できないようだ。

 森の入り口に戻ろうとする俺たちを、パトリシアとその友人ルナが待っていたのだ。

 二人に、俺たちが洞窟内を捜索しているところを見られていたのだろう。


「おーっほっほっほ。待っていましたわ!」


「ラッキー。ボールを二個も持ってる!」


 パトリシアとルナが、俺たちの持つボールを見ながら嬉しそうな声を上げた。

 俺たちからボールを奪うつもりなのだろう。


「そのボール、わたくしたちにくださらない?」


「ほら、ちまちまボールを探すのって面倒くさいじゃない?」


 予想通りだ。しかしボールを渡すことは出来ない。

 このボールはリリーの自己肯定感そのものだ。

 ボールを奪われたら、リリーの自己肯定感まで奪われてしまう可能性がある。

 そんなことはさせない!


「これはリリーが取って来てくれたボールだ。渡せない」


 俺がハッキリと断ると、二人はターゲットをリリーに変更した。


「リリー、わたくしたちにボールをくれますわよね?」


「リリーは良い子よねー?」


 パトリシアとルナは笑顔を作っているが、これは脅しだ。

 自分たちが笑っているうちにボールを渡せと言いたいのだろう。


 そういう授業とはいえ、あまりにも横暴だ。

 せめて脅しではなく、戦って奪い取ってほしいものだ。


 俺が二人に言い返そうとしたところで、リリーが絞り出すような声を出した。


「いっ、嫌です! せっかくフィンレー君の役に立てたのに、このボールを失ったら、私はまた足手まといになってしまいます!」


 二人が恐いだろうに、よく言い返した!

 しかしリリーは、今にも泣き出しそうな顔をしている。


『「また」のう。リリーちゃんは足手まといとか役立たずとか言われながら、育ったのかもしれんのう』


 ゴッちゃんが悲しそうな目でリリーの周りを飛んだ。

 良くない環境で育ったことも、リリーに劣等感を抱かせる原因なのかもしれない。


(それならなおさら、自分に自信を持ってもらえるよう、今回はリリーに成功体験をさせないと!)


『そうじゃのう』


 俺は自身の拳を握り締めると、リリーの前に立った。


「フィンレー君……?」


「もしかして、わたくしたちに逆らう気ですの?」


「今、素直にボールを渡すなら痛めつけないわよ?」


 ボールを渡そうとしない俺たちの反応に、パトリシアとルナはイラついているようだった。

 顔を歪め始めた二人に、俺は強く言い放つ。


「それでも、ボールは渡さない!」


 パトリシアとルナは互いに顔を見合わせてから、俺たちのことを見た。


「なら、手加減はいりませんわね」


 こうして、パトリシアとルナはボールを、俺はスキルを奪うための戦いが始まった。




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