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儚げ美少女の笑顔は全力で守りたい!

第28話


「おはよう、リリー」


「フィンレー君、おはようございま……その傷はどうしたんですか!?」


 登校するなり、リリーが心配そうに俺の腕を触った。

 言われて自身の腕を見ると、俺の腕には昨日糸が巻きついたせいで出来た傷があった。

 血がだらだらと流れていた手のひらの傷にばかり気を取られていたが、こんなところにも傷が出来ていたとは。

 懐かしい夢を見たことで、身支度をしていた際にも心ここにあらずで気付かなかった。


 しかしこの程度の傷はどうということはない。

 日常生活に支障はないし、放っておけば自然と治るだろう。


「昨日、紙で切っちゃったんだ。紙って意外と切れるよな」


 リリーに心配をされないよう、それらしい嘘で誤魔化す。

 俺としては別に本当のことを言ってもいいのだが、学校に侵入者がいたなんて話をしたらリリーが怖がると思ったからだ。


「こんな場所を紙で切っちゃったんですか?」


「こんな場所を紙で切っちゃたんだ。ビックリだよな!?」


 若干怪しまれた気もするが、紙で切ったでゴリ押す。


「ふふっ。紙で腕を切っちゃうなんて、フィンレー君にも普通なところがあったんですね」


 俺の言葉を聞いたリリーが柔らかな笑みを見せた。


 よかった。紙で切ったでゴリ押し出来たみたいだ。

 しかし信じられたら信じられたで、腕に紙で切った傷を付けて登校する男は、少しもカッコ良くない。むしろカッコ悪い。


「もしかして幻滅した?」


「いいえ。なんだか親近感が湧きました。フィンレー君は強すぎて、遠い存在のような気がしていましたから」


 リリーが少し嬉しそうに言った。

 リリーは俺の、対パトリシアとルナ戦での圧倒的な戦闘を見ているから、俺のことを遠い存在のように感じてしまったのだろう。


「遠い存在なんて言うなよ。俺はリリーともっとお近づきになりたいんだから」


「私なんかと……?」


「リリーなんか、なんて思ったことは一度も無い。リリーは可愛い女の子じゃないか!」


 そう言ってリリーに笑いかけると、リリーは耳まで真っ赤にしてしまった。


「フィ、フィンレー君!? そういうことを、誰にでも言ってるんですか!?」


「え? 今、リリーに初めて言ったけど? それがどうかした?」


「!? も、もう、この話はやめましょう。私の心臓によくありません! そうだ、傷を見せてください!」


 リリーの要望通り、リリーに両腕を見せた。

 腕は糸の痕が付いて赤くなってはいるものの、もう血も出ていなければ、特に痛くもない。


「大したことないだろ?」


「回復魔法を使いますね」


「いや、いいよ。傷があった方がカッコイイだろ?」


「今さっき、紙で切った傷があるのは幻滅するか、って聞いてませんでしたか?」


「うん。だけど傷自体は良いと言うか……」


 紙で切った傷という話をしてしまうとカッコ悪いが、傷があること自体はカッコイイと思う。

 戦いに身を投じる戦士っぽく見えるはずだ。

 実際、この傷は戦いの中で出来た傷だし。

 先程リリーには紙で切った傷だと説明したが、リリー以外の人は勝手にカッコイイ理由で出来た傷だと思ってくれるかもしれない。


「傷は勲章と言うか……」


 しかし俺の言葉を聞いたリリーは、不思議そうに首を傾げた。


「フィンレー君のセンスはよく分かりませんが、かさぶたになったら痒くなりますよ」


「あっ、そうか。じゃあ治そうかな」


 カッコよく見られたい気持ちはあるものの、痒いのは普通に嫌だ。


「私が治しますね」


 自分で回復魔法を使おうとすると、それよりも早くリリーが回復魔法を使用した。

 みるみるうちに腕の傷が薄くなっていく。


「リリーは回復魔法が使えたんだな」


 簡単な初級の回復魔法ではあるが、腕の傷はすっかり綺麗になった。

 リリーは自身の魔力量が少ないことを気にしていたが、小さな傷を治す程度なら問題が無いように見える。


「弟がヤンチャですぐにケガをするので、覚えたんです」


「リリーの弟か。リリーに似てるなら綺麗な顔なんだろうな」


「フィンレー君はまた……!」


 リリーが再び耳まで真っ赤に色づかせた。


(もしかしてこれは、もしかするのでは!? リリーが俺のことを意識してる!?)


 さすがの俺でも、こんなに分かりやすい反応をされたら察する。


 リリーは俺のことを意識しているからこそ、綺麗と言われて照れている!

 これは脈アリだ!


『甘い空気のところ失礼』


 俺がさらにリリーを褒めて畳みかけようとしたところで、ゴッちゃんが俺とリリーの間に割って入ってきた。


(ゴッちゃん、今いいところなんだから話しかけないでくれよ!?)


『そういうわけにはいかんのじゃ。フィンレーは忘れておるようじゃが、今日の午後にはリリーちゃんのスキルを見てから二十四時間が経過する。その前にスキルを奪うのじゃ』


(リリーからスキルは奪いたくない)


『そんなことを言われても。スキルはまだまだ集めんといかんからのう』


 だとしても、リリーのスキルを奪うのは最後に回したい。

 スキルが使えなくなったら、きっとリリーの劣等感が増してしまう。


(昨日、四人分も集めただろ。パトリシアとルナと侵入者の二人。それで十分だろ)


『昨日は昨日、今日は今日じゃ。今日もまたスキルを奪うのじゃ』


「というか、あとどれくらいスキルを集めればいいんだよ。俺、相当集めてるぞ!?」


『まだまだ惑星エネルギーの減少は世界滅亡レベルじゃ。フィンレーの活躍によって、当初よりも滅亡が五分遅れた程度かのう』


「まだそれだけなのかよ!? この作戦で本当に世界が救えるのか!?」


 俺の言葉を聞いたゴッちゃんが、杖で俺の頭を小突いた。


『だから早くスキルを集めろと言っておるのじゃ。青春だ女の子だなどと抜かさずに、とっととスキルを奪わんか!』


 そうか、もっとハイスピードでスキルを集めないと……って、ちょっと待て。


(俺、ゴッちゃんの尻拭いをしてるんだぞ!? もっと俺に敬意を払ってもいいんじゃないか!? あまりにも自分勝手だ!)


『神は自分勝手なものと相場が決まっておる。そんな神と契約したのじゃから、フィンレーの自己責任じゃ。契約したからには諦めて働くのじゃ』


 昨日の今日で、ゴッちゃんは開き直ることに決めたようだ。

 少しも申し訳なさそうな様子を見せずに、ふんぞり返っている。


(鬼! 悪魔!)


『残念、神じゃ』




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