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第32話


 授業を終えて男子寮に戻ると、オーウェンが部屋を訪ねてきた。

 昨日の今日で、また寮を抜け出す相談だろうか。


『もしかするとこの小僧は、またあの眼鏡女教師に叱られたいのかもしれんぞ。昨日叱られたことで、そういう性癖に目覚めたとかで』


(やめろよ、ゴッちゃんじゃないんだから。それに昨日は軽く注意されただけで、性癖が捻じ曲がるほどのお叱りは受けてないぞ)


『性癖は些細なことで捻じ曲がるものじゃ。どんな性癖を持っていたとしても、軽蔑せずに受け入れてやるんじゃぞ』


(別にそのくらいで友人をやめたりはしないけどさ)


 オーウェンの性癖を心配するゴッちゃんと俺だったが、オーウェンが訪ねてきたのは、もちろんそんな話をするためではなかった。


「フィンレー、僕の作った自警団に入ってくれないかな」


「藪から棒に何の話だ?」


 あの眼鏡女教師に叱られたい、踏まれたい、などと言い出さなくて安心したが、自警団とはまた意外なことを提案してきたものだ。


「昨日学校に侵入者がいたでしょ? だから僕、学校を守る自警団を作ろうと思ったんだ。学校に侵入する悪者をいち早く見つけて、学校の平和を守る自警団だよ。みんなで夜の学校の見回りをするんだ」


「オーウェンってそんなにこの学校に思い入れがあったのか?」


 自ら学校の見回りなんて、よほど学校が好きではないとやらないだろう。

 ……と思ったが、オーウェンは悪戯っぽく口の端を上げている。


「ぶっちゃけ楽しそうでしょ、自警団って。夜に見回りの名目で学校を探検したりしてさ」


「動機が不純だな」


 要するにオーウェンは、また昨日のように夜の学校を探検したいだけなのだろう。


「動機がどうあれ、僕たちが楽しくて、学校のためにもなるんだから、一石二鳥だよ」


『フィンレー、この小僧の作った自警団に入るのじゃ』


(え、なんで?)


『学校を守るという大義名分のもと、夜の学校を歩き回れるじゃろう。その中でスキル増幅石を見つけて壊すのじゃ』


 学校を守るフリをしながら学校内にある宝を壊そうとは、ゴッちゃんもなかなか悪いことを考える。

 だがその通りだ。自警団は良い隠れ蓑になる。


「その自警団、先生たちの承認は受けてないんだよな?」


「うん。だから先生たちに見つからないよう、秘密裏に学校を守るんだ。僕たちが学校の影の守護者になるんだよ!」


『フィンレーは影の守護者のフリをしてスキル増幅石を壊すがのう』


 正義をかかげるオーウェンに対して、ゴッちゃんは俺が裏切り者であるかのような物言いをした。


『安心するのじゃ。フィンレーは悪者ではない。世界のために、校長室に侵入して、保管してある宝を壊すだけじゃ。世界のために、他人の持ち物を壊すだけなのじゃ』


(言い方が悪い!)


「フィンレーも自警団に入ってくれるよね!?」


 ゴッちゃんと俺とのやりとりなどまるで知らないオーウェンが、キラキラした純粋な瞳を俺に向けている。


「……分かった。俺もオーウェンの作る自警団に入るよ」


 オーウェンを騙しているようで気が引けるが、隠れ蓑にするために自警団を利用させてもらおう。

 自警団に入っていれば、夜の学校を歩き回っているところを誰かに見つかった際の言い訳が立つのだから。




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