消灯時間になった頃、授業棟の近くの茂みに集まる一団がいた。
オーウェンの作った自警団の生徒たちだ。
「エフォート魔法学校の自警団、初の見回りをするぞ!」
「おーーーっ!!」
オーウェンが小声で気合いを入れると、生徒たちも小声で応えた。
集まった生徒は男女合わせて九人。意外と多い。
「……って、どうしてミンディとリリーがいるんだ?」
生徒たちの中に、何故かミンディとリリーの姿があった。
「私はリーダーのオーウェン君に誘われたんです。自警団にフィンレー君が入るだろうけど私も一緒にどうか、って」
どうやらオーウェンは、俺が自警団に入る前提でリリーを誘っていたらしい。
俺が断ったらどうするつもりだったのだろう。
それに、せっかくリリーに侵入者がいたことを秘密にしたのに、俺の努力が水の泡だ。
「あたしは特進科の生徒から誘われたの。学校を侵入者から守る活動をしないかって。あっちにいる男子なんだけど、彼はリーダーの友人らしいわ」
ミンディの指し示した先には、オーウェンと同じような赤毛の少年が立っていた。
同郷の友かもしれない。
「オーウェンは顔が広いんだな」
「特進科の友人は彼だけだよ。だからほとんどは普通科の生徒なんだ」
もう一度集まった生徒たちを見ると、その中にはパトリシアまでいた。
「あんたも自警団に入ったのかよ」
「この学校には、絶対に何かがあるはずですもの。だってわたくし、スキルが使えなくなってしまったんですのよ!?」
それは学校のせいではなく俺がスキルを奪ったからだ。
もちろん教えるつもりはないが。
「ルナはあなたが何かをしたと言っているけれど、他人のスキルを奪うなんて、個人で出来ることではありませんもの。学校に仕掛けがあるに違いありませんわ!」
パトリシアは、勝手に都合の良い解釈をしてくれたようだ。
その調子で、俺のことを疑っているルナにも、学校仕掛け説を吹き込み続けてほしい。
「で、いつも一緒にいる二人はどうしたんだよ」
「あの二人は、夜更かしはお肌の大敵だからパス、だそうですわ」
パトリシアとその友人は、案外ドライな関係のようだ。
「あんたはいいのか? 夜更かしは肌の大敵なんだろ?」
「肌よりもスキルの方が重要ですわ! もちろん肌も大切ですけれど……スキルの無いわたくしは、跳べないうさぎ、舞えない鳥。弱って死ぬしかありませんもの」
「スキルが無くても生きていけるって。ニワトリだって飛べなくても生きてるだろ」
「スキルをお持ちのあなたには、この喪失感は理解できませんわ」
確かに俺は「喪失感」については理解できないかもしれない。
スキルホルダーのことを最初から無能スキルだと思って生きていたから。
しかし、これだけは言える。
「たとえスキルが無くても、あんたならどうとでもなるだろ。誰もが羨むような外見をしてるし、自信満々な振る舞いで、何でも手に入れられそうだ」
「なっ!? あなた、なにをっ!?」
パトリシアは一瞬の動揺の後、急に高らかに笑い始めた。
「おーっほっほっほ。わたくしの美しさに気付くなんて、庶民のくせに目の付けどころが良いのではなくて!? 褒めてあげても良くってよ!」
『単純じゃのう。ただすぐに調子に乗るのは、パトリシアちゃんの属性的にオーケーじゃ!』
「そこ、静かにして。警備員にバレちゃうよ」
声を上げつつ笑うパトリシアの口を、オーウェンが押さえた。
少ししてパトリシアが落ち着いたことを確認したオーウェンは、自警団のリーダーとして見回りの話を始めた。
「集まったのは全員で九人だね。じゃあ三人一組で見回りをしよう。組み合わせは……」
「あたし、フィンレーと一緒がいいわ」
「わ、私も、フィンレー君と一緒が良いです」
オーウェンの言葉を聞いたミンディとリリーがすぐに手を挙げた。
ミンディはさておき、リリーがいじめっ子のパトリシアと組むことは避けたい。
それなら、俺とミンディとリリーの三人で組むのが平和な気がする。
そう思ってオーウェンを見ると、オーウェンはジトっとした目を俺に向けていた。
さらにオーウェンだけではなく、他の生徒たちも俺のことをジトっとした目で見つめている。
「え、なに?」
「フィンレー、それはずるい」
「ずるいって何?」
ずるいと言われた理由が分からずに尋ねると、オーウェンは俺の頬を軽くつねった。
「この場に女子は三人しかいないのに、そのうち二人を独り占めするなんて!」
そうだそうだ、と他の生徒たちからも声が上がる。
「え、じゃあ、オーウェンの好きに組み合わせを決めてもいいけど……」
「あたしはフィンレーと一緒じゃないなら帰るわ」
「私も知らない人たちと一緒に見回りをするのは、その、嫌です。何を喋ったらいいのか分かりませんし……あと、その、えっと、何よりも……」
リリーは言いづらそうにパトリシアをちらりと見た。
パトリシアと一緒のグループになることだけは避けたいのだろう。
リリーの反応を見たオーウェンは、諦めたように溜息を吐いた。
「分かった。次回からの組み合わせはまた考えるとして、今日はひとまず好きな相手と組もう」
「やったあ! フィンレー、リリー、よろしくね!」
「足手まといかもしれませんが、よろしくお願いします」
すぐにミンディとリリーが俺の両腕を掴んだ。
(わあ! 両手に花だ!)
『フィンレーよ。おなごとイチャイチャすることに気を取られるでないぞ。お前の今日の目的は、校長室の警備体制を確認して、スキル増幅石を壊す算段を付けることじゃ』
(分かってるよ、もう)
喜んだのも束の間、すぐにゴッちゃんが忠告を入れてきた。
「残りのメンバーで二グループを作るわけだけど、女子はパトリシア一人か」
「さあ、男子生徒の諸君。存分にわたくしを取り合いなさい!」
「……もう僕はじゃんけんでグループ決めをすればいいと思うんだけど、みんなはどう?」
「それでいいんじゃないか」
「賛成ー」
残念ながらパトリシアは男子生徒たちに取り合われることはなく、公平にじゃんけんでグループが決まった。