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第34話


 夜の暗い校舎内を、ミンディとリリーと一緒に歩く。

 勝手に見回りをしていることがバレないように、灯りは昨日と同じく小さなランタンのみだ。

 灯りが小さいため、三人で身を寄せ合って進む。


(これは二人と一緒でラッキーだったな)


『あんまり鼻の下を伸ばしておると嫌われるぞ』


(平気平気。暗いからよく見えないって)


 実際すぐ隣にいるのに、ミンディの顔もリリーの顔もくっきりとは見えない。


「夜の学校って雰囲気がありますよね。こう、出そうと言いますか……」


「もしかしてリリーって怖がり?」


「えっと、人並みには……お化けが怖いです」


「わあ、リリーってば可愛い!」


 怖がるリリーを見たミンディが、楽しそうな声を上げた。

 ミンディは幽霊の類が全く怖くないらしい。


(リリーはゴッちゃんのことを見たら、怖がるかもしれないな)


『失礼な。儂はお化けではなく神じゃ。怖がられるどころか、崇められる存在なのじゃ』


 幽霊は見たことがないが、ふわふわ浮いているゴッちゃんは幽霊と間違われる気がする。

 ……ある意味、幽霊よりもずっとタチの悪い存在だが。


「ミンディちゃんはお化けが怖くないんですか?」


 まったく怖がる様子を見せないミンディに、リリーが尋ねた。


「うーん。この場合はお化けよりも人間の方が怖いかしら。学校に侵入する人なんて、覚悟が決まっていそうだもの」


「ああ、出会ったら戦闘になる可能性があるな」


 昨日侵入していた三人は俺を殺す気で襲ってきた。

 目撃者を殺せばいい、なんて発言もしていたくらいだ。対峙したら戦闘は避けられないだろう。


(三人一組に分かれるのは悪手だったかもな。もし侵入者と出会った場合、新入生が三人だけじゃ心許ない)


『しかし一緒に行動する人数が増えれば増えるほど、フィンレーが校長室の調査をすることが難しくなるじゃろう』


(それはそうだけどさ)


 戦闘という単語を聞いたリリーは、幽霊に怯えていたときよりもさらに怯えてしまった。


「わ、私、軽い気持ちで自警団を引き受けちゃいました……どうしましょう」


「リリーは俺が守るから安心してくれ」


「フィンレー君……!」


 リリーを安心させるためにカッコつけると、リリーは感動したのだろう声を出した。

 しかしミンディは、俺の脇腹を小突いた。


「フィンレーったらカッコつけちゃって。本当に危なくなったら、守るとか守らないとかじゃなくて、まずは逃げないとでしょ」


「そ、そうですよね。まずは危険から逃げて大人に知らせるのが、一番ですよね」


 ミンディの現実的な意見にリリーも賛同した。


「俺、守れるのに」


『今のフィンレーは、ただの子どもに見えるからのう。おなごを守りながら相手に勝てるようには見えんのじゃ』


「俺、勝てるのに」


「敵が複数人の可能性だってあるわ。複数人からリリーを守り切るのは難しいと思うわよ」


「私を守るって……ミンディちゃんは平気なんですか?」


 確かに今のミンディの発言は、俺にはリリーだけを守れと言っているようにも聞こえる。


「あたし、かなり足が速いのよ。ヤバイと思ったら走って逃げるから大丈夫」


 そういえば、ミンディは昔から足が速かった。

 本人の言う通り、自慢の足で敵から逃げ切れる可能性は高い。

 とはいえ、いざとなったらミンディを守ることも考えないと。


『おっ。フィンレーは男の子じゃのう』


(可愛い女の子は、全員守らないとだからな!)


『その言い方、可愛くないおなごは守らなくても良いのか?』


(可愛くない女の子なんて存在しないだろ)


『儂、フィンレーのそういうところ、好きじゃよ』


 俺たちはしばらく暗い廊下を歩き続けた。


 校長室を目指したかったが、入学したばかりの俺は、まだ校長室がどこにあるのかを知らない。


「侵入者が目指すのは校長室だよな? ミンディとリリーは、校長室がどこにあるのか知ってるか?」


「それが分からないのよね。昨日と今日で校内は大体歩き回ったはずなんだけど、それらしき部屋は見つからなかったわ」


「もしかして魔法で隠されてる……とかですかね? 貴重品が置かれているなら、そういう措置が取られてもおかしくないと思います」


 確かにそうだ。用心のために校長室を魔法で隠している可能性は高い。

 もしくは仕掛けを解かないと校長室が出現しないようになっているとか。

 どちらにしても簡単には見つけられない気がする。


「……二人とも、下がってください。あと、灯りを隠して声を落としてください」


 俺が校長室の在り処に頭を悩ませていると、突然リリーが俺たちを後ろに下がらせた。

 そしてリリー自身も隠れながら、廊下の先を確認する。


「どうしたの?」


「廊下の端に誰かいます」


 リリーに指摘された俺とミンディも顔を出して確認してみたが、廊下の先は真っ暗で何も見えない。


「廊下の端ってかなりの距離があるじゃない。暗いのによく見えるわね」


「私、そういうスキルを持ってるんです」


「リリーはスキルを使いながら歩いてたのか?」


「はい。侵入者を見つけたら、あっちに気付かれる前に逃げた方が良さそうだったので」


 どうやらリリーが怖がりなおかげで、いち早く侵入者を発見することが出来たようだ。


「相手は何人いるんだ?」


「四人です」


「じゃあ自警団じゃないな。自警団は三人で組んで見回りをしてるから」


 もしかすると別の見回りグループかもと思ったが、人数から考えてそうではないらしい。

 しかも夜の校舎内で灯りを使わずに移動をしている。つまり、侵入者の可能性が高い。


「この距離なら、相手はあたしたちに気付いてはいないはずよ」


「だろうな。リリーのおかげですぐに灯りを隠せたからな」


『フィンレー、分かっておるな? 相手が侵入者なら、スキルを奪うチャンスじゃぞ』


 ゴッちゃんが嬉しそうに俺の周りを飛び回った。


(分かってる。侵入者のスキルなら奪っても心が痛まないから、大歓迎だ)


 俺は小声で、この後してほしい行動を二人に伝えた。


「ミンディとリリーは誰かを呼んで来てくれるか? でも一人で行動するとあいつらに仲間がいた場合に戦闘で不利だから、必ず二人で動いてくれ。敵の発見には、リリーの暗視スキルが役立つはずだ」


 俺がテキパキと指示を出すと、ミンディとリリーは心配そうな顔で俺を見つめていた。


「フィンレーはどうするのよ」


「俺はあいつらが逃げないように見張っておく」


「あの、見張りなら、私の方が……」


 リリーが見張り役を引き受けようとしたが、これは丁重にお断りをする。


「大人を呼びに行く際の移動が一番危ない。リリーの暗視スキルで、ミンディが敵に見つからないようにしてほしいんだ。リリーがいれば、ランタン無しで歩けるだろう?」


 俺に頼まれたリリーは、ミンディのことを見てから、頷いた。


「無理はしないでよ、フィンレー」


「すぐに大人を呼んできます」


 そして二人は手を繋ぎ、足音を立てないように気を付けながら去っていった。




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