再びランタンを持ち、女の逃げた方向に向かって廊下を歩きながら、壁を一つずつ消していく。
そうやって進んでいき、何個目かの壁を消した先に、女の姿があった。
「おい! この壁はお前の仕業か!?」
「まあな」
「あいつらはどうしたんだ!?」
「全員ぐっすり眠ってるよ」
廊下の先は暗くて何も見えないが、誰の声もしないことから女は俺の言葉が嘘ではないと察したのだろう。
「……お前、何者だ」
「この学校に通う生徒だよ」
「ハッ。生徒が学校の見回りをしてるのかよ。どんだけ人手不足なんだか。そんな学校に入学したお前は、お先真っ暗だな」
女が馬鹿にしたような口調で俺のことを挑発してきた。
俺を挑発して、隙を生み出す作戦だろう。
「俺たちは自主的に見回りをしてるだけだ。侵入者を捕まえるために友人が自警団を作ったんだ。それで、あんたらは盗賊団か何かか?」
「オレたちが、盗賊団だって?」
『自分のことをオレと呼ぶおなごは、儂の好みではないのじゃ!』
女の一人称を聞いたゴッちゃんが憤慨した。
しかし今気にするべきはそこではない。でも女の子の好みに関する話題を無視するわけにはいかない。
(俺は守備範囲内かな。言葉遣いはあれだけど、綺麗な顔をしてるから)
『これだから面食いは嫌なんじゃ。儂が許せる一人称は「ボク」までじゃ』
(ボクっ娘はイイよな。俺も好きだ。でも「オレ」もそれはそれでアリかも?)
『フィンレーはおなごなら何でも良いんじゃろう。この女好き!』
ゴッちゃんは先程、すべての女の子が可愛くて好きだという俺のことを、好ましく思っていると言っていたのに、今度はケダモノを見るような目を向けてきた。なんだそれ。
……って、こんな話をしている場合じゃなかった。
「あんたらは盗賊団なんだろ?」
「違う。オレたちは崇高な革命組織だ!」
「盗みを働く革命組織? 革命が聞いて呆れるな」
今度は俺が女を挑発してみた。
すると女は沸点が低いようで、すぐに怒りに満ちた声を発した。
「お前は知らねえだろうが、この学校はスキル増幅石ってヤバいもんを隠し持ってる。この惑星を滅ぼす悪の道具だ!」
おや。もしかしてこの女の所属する革命組織は、スキルの使用が惑星のエネルギーを消費すると知っているのだろうか。
詳しく聞いてみた方が良さそうだ。
「あんたらの革命組織は、スキルの使用が惑星を滅ぼすと知ってるのか?」
「はあ? スキルは神から与えられたものだから別にいいんだよ。だがスキル増幅石は違う。神の意志に逆らってる、人間の傲慢さの表れだ!」
女は憤慨した様子で言い放った。
『一瞬、革命組織がこの世界の真理を理解しているのかと思ったが、こいつの所属する革命組織は、神の意志に逆らうという理由でスキル増幅石を嫌っておるようじゃのう』
人工的にスキルを増幅させる行為は良くない、というのが革命組織の主張らしい。
だから、神の与えたスキルをそのまま使用すること自体は、問題とは思っていないようだ。
「あんたらは、スキル増幅石を手に入れてどうするつもりだ」
「壊す。あれは存在しちゃいけねえものだからな」
『ふむ。革命組織の主張は、この世界の真理とは少し違うが、利用は出来そうじゃのう。理由はどうあれ、革命組織はスキル増幅石を壊そうとしておるのじゃから』
(そうだな。いろいろと情報も持っていそうだから、上手く接して……)
そのとき、廊下にいくつもの灯りが見えた。ミンディとリリーが大人を呼んで来てくれたのだろう。
「やばい。このままじゃ捕まる!」
女は俺の作り出した壁を叩いて壊そうとするが、素手で壁が壊れるわけもない。
「おい、お前! この壁を消せ!」
「壁を消したところで、もう学校からは逃げられないと思うぞ。脱出できるような場所はすでに監視されてるはずだ」
「……くそっ」
悔しそうに舌打ちをする女に、一本の鍵を渡す。
「男子寮の315号室の鍵だ」
「何のつもりだ」
「捕まりたくないなら俺の部屋に隠れればいい。ただし、俺が部屋に戻ったらちゃんと鍵を開けてくれよ」
「……オレを匿うつもりか? なぜ?」
女は差し出された鍵から視線を移動させ、俺の目を見た。
「俺もスキル増幅石には思うところがあるんだ。もしかすると俺たちは手を組めるかもしれない。だけどその辺のことは後で話そう」
「……礼は言わねえからな」
女が奪い取るように鍵を持ったと同時に、生成した壁を消した。
女は壁の無くなった廊下を走り去っていく。
「上手くやれよ」
俺は去っていく女に、そう声をかけた。