あれから簡単に事情聴取のようなことが行なわれたが、俺が子どもということもあり、割とすぐに解放された。
詳しい話はまた明日聞かれるのかもしれない。
なお事情聴取の中で自警団の話もする羽目になり、その件に関してはしっかりと叱られた。
きっとオーウェンたちも明日叱られるだろう。
「はあ、疲れた。寮に帰って早く寝よう」
『早く寝られるわけがなかろう。部屋にはあのおなごがいるのに』
「あ、そうだった」
寮の部屋に帰ったら、あの女の人とこれからのことを話さなければならない。
……明日にしてくれないかなあ?
さっきは自分の部屋に女の人がいる状況が嬉しくて仕方がなかったが、今はそんなことよりも早く寝たい。
「やっぱり子どもの身体は体力が無いな。眠くて仕方ない。あの人、勝手に部屋を出て行ってくれてないかな」
『もっとやる気を出さんか! あのおなごを上手いこと言い包めて利用するんじゃろう!?』
「ゴッちゃんはいつも人聞きが悪い」
確かにそのつもりで部屋の鍵を渡したのだが、しかし何と言ってあの女の人を懐柔すればいいのか分からない。
俺には女性経験どころか、他人との交渉術が無いに等しい。
やっぱり今夜のところは寝る、でいいのではないだろうか。
「全部明日にしよう、ゴッちゃん」
『何を言っておる。事は一刻を争うんじゃぞ。早くスキル増幅石とやらを壊さねば惑星が滅ぶんじゃぞ!?』
「一日二日じゃ変わらないだろ」
『変わるんじゃ! 早く寝たいなら、とっととあの女と話せばいいだけじゃ!』
プンプンと怒るゴッちゃんを、軽蔑した目で見つめる。
『な、なんじゃ……?』
「子どもを寝かせないのは虐待だと思いまーす」
『こっ、こんなときばっかり、子どもであることを盾に使いおって……』
途端にゴッちゃんは困ったように眉を下げた。
子どもを夜中に働かせるのは良くないという倫理観は持っているらしい。
「ま、ちょっとだけなら話しておこうか。何も知らない相手と同じ部屋で寝るのは俺も嫌だし」
ゴッちゃんが引き下がったことで気を良くした俺は、妥協案として例の女の人から軽く話を聞いた後に寝ることにした。
『上手いことあの女の持つ情報を手に入れるんじゃぞ。もしスキル増幅石の作り方の書かれた本があるようなら、石ともどもこの世から消し去る必要がある。頼んだのじゃ』
「はいはーい」
『軽い!』
315号室に到着した俺は、部屋の扉を軽くノックした。
「フィンレーだけど、鍵を開けてくれない? えっと、オレ女さん?」
ノックから少し後、ゆっくりと扉が開いた。
「そんなに警戒しなくても……いや、状況的に警戒はするか」
部屋の中に入ると、例の女が短剣を構えていた。
俺は気にせず部屋の中を進み、ベッドに倒れ込んだ……が、横になったままだと本当に寝てしまいそうなため、身体を起こしてベッドに座る。
「オレは短剣を構えてるんだぞ? どうして警戒しねえんだ」
「匿ってくれた相手を攻撃しても良いことなんか何も無い。だからオレ女さんは俺を攻撃しない。だろ?」
女が無言で扉の鍵を閉めながら、短剣を懐にしまった。
「オレはアレッタだ。オレ女じゃねえ」
「じゃあ、アレッタ。少し質問してもいいか?」
「別に良いが、オレが正直に答えるとは限らねえぜ」
アレッタが不敵に笑ったが、俺はアレッタの言葉を了承した。
「それでいい。元より拷問もせずにすべてを答えてくれるとは思ってないからな」
「あ、ああ」
アレッタは俺の納得の早さにやや驚いているようだった。
確かに十二歳の言うセリフではなかったかもしれない。
「じゃあ簡単なところから。スキル増幅石はこの学校のどこにあるんだ? やっぱり校長室か?」
「オレたちはそう踏んでるが、校長室の場所が分からねえ」
「やっぱりそこに行き着くか。校長室の在り処を誰も知らないなんて、学校の七不思議にでもなってそうだな」
新入生ではなく、学校の在校生なら知っているだろうか。
しかし在校生に知り合いはいない。
それにここまで隠されているのに、ただの在校生が校長室の場所を知っている可能性は低い気がする。
「スキル増幅石がこの学校の校長室にあるって情報はどこから入手したんだ?」
「オレは革命組織に所属してるって言っただろ。独自の情報網があるんだ。詳しくは言えねえがな」
「そっか、分かった」
俺が次の質問に移ろうとすると、目の前をゴッちゃんが飛び回った。
『分かった、じゃないのじゃ! あっさり引き下がってどうするんじゃ、フィンレー! もっと根掘り葉掘り聞かんか!』
(だって眠いんだもん。重要なことだけ聞いて早く寝たい)
『それは……うむ。子どもは寝るのが仕事じゃからのう……』
ゴッちゃんの意外な弱みを見つけてしまったかもしれない。
これからは都合が悪くなったら、眠いとぐずってみよう。
「学校にはどうやって侵入したんだ? 結界は張られてなかったのか?」
「普通に警備員の目を盗んで侵入できたぞ」
どうやらこの学校には侵入を拒むタイプの結界は張られていないらしい。
俺は一度深呼吸をすると、オーウェンから学んだ爽やかな笑みを見せた。
「じゃあここからは提案だ。俺たち、手を組まないか?」
「はあ!?」
「もちろん革命組織に入れてくれって意味じゃない。この学校に隠されたスキル増幅石を壊すまでの同盟だ。組織じゃなく、俺とあんたの個人的な同盟」
アレッタは俺のことを上から下まで眺めてから、呆れたように息を吐いた。
「オレがお前みてえな子どもと同盟? オレに何の得があるって言うんだよ」
「あんたを匿ったのは誰だ? あんたの仲間を倒したのは?」
「それは、そうだけどよお……」
アレッタは先程の出来事を思い出したのだろう。
複雑そうな表情をしている。
『儂、このおなごと同盟を組むなんて話は聞いてないのじゃ。何故じゃ。顔が綺麗だからか!?』
(眠いからだよ。同盟を組めば寝込みは襲わないだろ)
『ふ、ふむ……』
「利害関係が一致してる間だけの簡単な同盟だから、深く考えなくていい。協力してスキル増幅石を壊そうってだけだ。壊した後は、同盟は解消。これなら革命組織とやらを裏切ることにはならないだろ」
「……分かった。同盟を組もうぜ」
俺の提案を了承したアレッタと、握手をする。
そして大きく伸びをしてから再びベッドに倒れ込んだ。
「じゃ、俺はもう寝るから。アレッタも適当なところで寝てくれ」
「もう寝るのか!? というかこういうときは普通、女にベッドを譲らねえ!?」
「俺、子どもだから、そういうのよく分かんなーい」
それだけを言い残して、俺は眠りに落ちた。