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第41話


 放課後。

 俺とリリー、パトリシア、それにオーウェンがやっと職員室から戻ってくると、教室に残っている生徒はもう居なかった。


「オーウェン、今日の自警団の活動には……」


「ごめん。今日はもう部屋で大人しくすることにしたんだ」


「あ、ああ。ちょうど良かったよ。今日は俺、出られないって言おうと思ってたから」


 オーウェンは職員室でこってり絞られたことが効いたらしく、しばらく自警団の活動は中止にするとのことだった。

 オーウェンは見ているこっちが可哀想になるくらい落ち込んでしまっていたが、確かに生徒たちだけで夜の校舎の見回りをするのは危険な行為だ。

 もし昨日、侵入者を見つけたのが俺たちではなかったら、鉢合わせた自警団の生徒が侵入者によって殺されていた可能性があるのだから。



「気を付けて帰れよ」


 オーウェンを見送っていると、荷物をまとめたパトリシアも教室から出て行った。

 ごきげんよう、と言いながら、少しもご機嫌ではない様子で。


 寮へと帰るオーウェンとパトリシアを見送っていると、鞄を手にしたリリーが近付いてきた。

 リリーは寝不足でふらふらしているようだ。


「フィンレー君はこの後どうしますか?」


「気になることがあるから、一人で校長室を探してみるつもりだ」


「じゃあ私も……」


「リリーは寝た方が良い。顔色が悪すぎる」


 今のリリーは、寮の自分の部屋まで辿り着けるかすら怪しいレベルで顔が蒼白い。一刻も早く寝るべきだろう。


「そうですね。倒れて迷惑をかけてしまうのは申し訳ないですよね。今日のところはもう寝ることにします」


『リリーちゃん、おやすみなのじゃ』


 もう寝る……そうだ!


「リリーにちょっとお願いがあるんだけど良いかな」


「私に?」


「ああ。眠いところ悪いんだけど、ちょっと暗視スキルを使ってみてほしいんだ」


『お? ついにリリーちゃんからスキルを奪う気になったんじゃな!?』


 ゴッちゃんは喜んでいるが、俺はリリーのスキルを使うつもりで奪おうとしている。

 つまり長期間ファイルに収納するつもりはない。今日奪って今日使うのだ。


「スキルを使うのは良いですが、ここは明るいので使っても何の意味も無いと思います」


「それでもいいんだ。発動さえしてくれれば。お願いできるかな?」


「はい。それがフィンレー君の望みなら」


 リリーは何も疑うことなく、俺の目の前で暗視スキルを使用した。ありがたくその様子をじっくりと眺める。


「これで良いですか?」


「うん。じゃあ次はここに立って、目を瞑って、両手で耳を塞いで」


「え? はい」


 リリーは俺に促されるままに、目を瞑って耳を塞ぎながら指定された場所に立った。

 位置を調整するフリをして、さりげなくリリーの手に触れる。


『やっぱりリリーちゃんは素直すぎてちょっぴり心配なのじゃ』


「それは俺も思う。スキルホルダー」


 俺はさっさとスキルを使用すると、リリーの写真を撮り、ファイルに収納した。

 これでいつでもリリーの暗視スキルが使用可能だ。


「もういいよ」


 リリーの手を耳から離して伝えると、リリーはぱちぱちと目を瞬かせた。


「ええと、何だったんですか?」


「リリーが気にするようなことじゃないよ。でも今日は帰ったらすぐに寝てくれ。そうすれば明日には元気になってるはずだから」


 すぐに寝るなら暗視スキルが無くなったことに気付かないだろうから、俺としてもその方が都合が良い。


「心配してくださってありがとうございます」


『なるほど。リリーちゃんの暗視スキルで夜に校長室の捜索を行なおうというわけじゃな。集めたスキルが消えるのは惜しいが、リリーちゃんからならいつでも奪えそうじゃから、まあええか』


 暗視スキルを奪った意図を察したゴッちゃんに、小さく頷いてみせた。




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