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第42話


 一人になった俺は、校舎の外側の壁を触って隠し扉が無いかを探して回った。

 まだ明るい時間だから暗視スキルを使用する必要は無い。

 しばらくは普通に校長室を探して、夕食の時間には怪しまれないように一旦寮に戻り、夜にまた寮から抜け出して校長室を探すつもりだ。


 俺が壁を触りながら歩き回っていると、明るい声と軽快な足音が響いてきた。


「おつかれ、フィンレー。フィンレーも校長室を探してるの?」


「うん。もしかしてミンディも?」


「ええ。校長室が隠されてることがどうにも気になって……それで、校舎内を解析スキルで確認して回ったの。隠し部屋や隠し通路があるかもしれないと思ってね」


 どうやら考えることは同じのようだ。

 ミンディの解析スキルなら、俺が手と目で探すよりもずっと素早く、ずっと正確なことが分かるはずだ。


『ミンディちゃんは有能じゃのう』


(ああ、自慢の幼馴染だよ)


「それで、結果はどうだった?」


「校長室は見つからなかったわ」


「……そっか」


 解析スキルで見つからないということは、校舎内に校長室は無いと思っていいだろう。

 何らかの方法で隠されているとしても、解析スキルがあれば違和感に気付くことが出来るはずだから。


(解析スキルってそういうものだよな、ゴッちゃん?)


『ミンディちゃんがうっかりさんじゃなければのう』


(ミンディは年齢以上のしっかり者だよ)


 その証拠に今のミンディは、まるで犯人の目星を付けた探偵のような顔をしている。


「それであたし、思ったの。『校長室』って名前から校舎内にあるものだと考えてたけど、もしかすると校長室は校庭に隠されてるんじゃないかって」


「地面の下に校長室があるってことか!?」


 ずいぶんと大胆な推理だ。

 しかし、そんなわけはないと否定する材料もない。


「誰もそんな場所に校長室があるとは思わないでしょ。意外性を狙ったのよ」


「なるほど、意外性か」


 突拍子もない話だが、探してみる価値はある。




 ミンディと二人で校庭を捜索していると、俺たちに近付いてくる人物がいた。

 パトリシアだ。

 一旦寮に帰って荷物を置いてから、校庭にやって来たのだろう。


「あなたたち。地面を這いつくばって、一体何をしていますの?」


「よっ、パトリシア。いつも一緒の仲間はいないのか?」


 俺が顔だけを上げてパトリシアを見ると、パトリシアはバツの悪そうな顔をしていた。


「……スキルを取り戻さないことには、エリートであるあの二人と一緒に居ることは出来ませんわ。スキルの無いわたくしは二人の隣に並ぶことなんて……」


「そこまでスキルを重要視しなくても良くない? 気が合うなら一緒に居ればいいのに」


 俺とともに這いつくばっていたミンディが顔を上げた。

 ミンディの顔には砂が付いている。


「この方は誰ですの?」


「彼女はミンディ。俺の幼馴染で、特進科の生徒だ」


「特進科ですって!?」


 パトリシアが大袈裟なほど驚いた。

 その名の通り、特進科はエリート揃いだからだ。

 普通科の中でエリートだのそうじゃないだのと言ったところで、特進科の前ではドングリの背比べになってしまうのだ。


「だから特進科のミンディはいわゆるエリートだけど、普通科の俺とも仲良くしてるぞ」


「あたしは気が合えば、どんなスキルを持っていても、持っていなくても、友だちになるわ。あなたとも仲良くなれると嬉しいのだけど」


 ミンディが立ち上がり、スカートの裾で手を拭ってから握手を求めた。

 まさかパトリシアがリリーをいじめているとは思っていないのだろう。

 パトリシアは速攻でミンディの手を握ってから、ハッとした様子ですまし顔を作った。


「ど、ど、どうしても友だちになりたいと言うのなら、なってあげてもよくってよ!?」


「なんか変わった人だね」


 ミンディが、小声で俺にそう言った。




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