俺たちはそれからしばらく校庭を探していたが、これといった成果は無かった。
意外だったのは、パトリシアが嫌がらずに一緒に校庭を這いつくばったことだ。
てっきりそんなはしたない真似は出来ないと言い出すと思っていたのだが。
それだけパトリシアも必死だということだろう。
またスキルを奪った罪悪感が湧き上がってくる。
『フィンレーよ、下手な同情はするでないぞ。スキルがパトリシアのもとに戻って乱用されれば、この惑星そのものが無くなるんじゃからな。スキルを奪って命を残すか、スキルを奪わず命を消すか、じゃ。命が残った方がよかろう?』
(分かってるよ。可哀想だけど、心を鬼にする)
誰よりも気合いを入れて、消えたスキルを復活させる仕掛けを探していたパトリシアと、解析スキルを使って疲れたのだろうミンディが、同時に座り込んだ。
「だめですわ。何も見つかりませんわ」
「校庭じゃなかったのかな。閃いたと思ったんだけど」
ミンディの「校長室が校舎内に無い」というのは、良い着眼点だと思っていた。
校長室と聞いて、誰もが思いつくのが校舎の中だからだ。
だからこそ校舎の外に校長室があるというのは先入観の裏をかいていて、隠し場所としてはピッタリだと思ったのだが……。
「校長室が校舎の外にあるって発想はすごいと思うぞ。俺ならそんなことは思いつかずにいつまでも校舎内を探してたよ」
「でも、違ったみたいね」
ミンディが残念そうに溜息を吐いた。
「ですが、校舎内でも校庭でもないとなると、校長室はどこにあるんですの?」
「どこだろう。寮の中とか? でも男子寮で校長先生は見たことがないな」
「女子寮の中に男である校長先生の部屋があるのは、倫理的にどうかと思いますわ」
「……もともと校長室なんか無かったりして」
なるほど?
校長室があるというのは、それこそ学校には校長室があるという先入観によるものだ。
裏をかくつもりなら、校長室を隠すどころか校長室を作らないというのもアリ……なのか?
『校長室が無いなら無いで、貴重品を保管する別の部屋があるはずじゃろう。儂らの目的を見誤るでない。儂らは校長室を見つけたいのではなく、スキル増幅石を見つけたいのじゃ』
(そうだよな。とにかくスキル増幅石を保管してる場所を見つければいいんだよな)
「校長室が無いなら、わたくしたちは存在しない部屋を探していた間抜けになってしまいますわ」
「校長室が無かったとしても、貴重品を隠す別の部屋があるわけで。それはどこなんだって話に戻るんだよな」
「それだって、ただのあたしたちの想像よ。そういう部屋があるんじゃないかって前提自体が間違ってたのかもしれないわ」
そう言って話を打ち切ろうとしたミンディの腕を、パトリシアががっしりと掴んだ。
「あなたたちが何故校長室を探しているのかはよく分かりませんが、とにかくこの学校のどこかにスキルを封じるトラップを遠隔操作する部屋があるはずですわ。わたくしはその部屋を見つけなければいけないんですの。もう少しだけエリートであるあなたのお力を貸して下さらない!?」
「……ねえフィンレー、彼女は何の話をしてるの?」
ミンディは、力強く主張するパトリシアに困惑している。
「パトリシアのことは気にしなくていいよ。話がややこしくなるから」
パトリシアの事情を話してあげたいが、そうするとミンディが、モーゼズがスキルを無くしたことと関連付けてしまう恐れがある。
それは避けたい。
「あなたは解析スキルを使って校長室を探していると仰っていましたわよね!? 校長室ではなくて、何かしらのトラップを見つけたりはしませんでしたの!? スキルを封じるような不思議なトラップとか!」
「うーん。不自然な魔法の掛かったものは何個かあったよ。例えば壁にかけられてる絵画のうち、猫の絵には全部魔法が掛けられてた。たぶん監視魔法じゃないかな。猫の絵は廊下の要所要所にあったから」
パトリシアの勢いに押されながらミンディが答えた。
「あれは猫好きな人の仕掛けた監視魔法かも」
「猫……」
最近どこかで聞いた気がする。どこで聞いたのだろう。
俺が最近よく一緒にいたのはリリーだから、リリーと猫の話をした? それともゴッちゃんと?
『儂は猫の話などしてはおらんのじゃ』
それならリリーと話したのだろう。
リリーとは教室でお喋りをして、お昼を食べて、実習の授業を受けて……。
「…………そうだ、あのときだ!」
俺はあそこでリリーと猫の話をした。
考えてみると不自然だったのだ。
「あのときって、何の話?」
「何を思い出したんですの?」
猫に思い至って大声を出すと、ミンディとパトリシアが不思議そうな顔で俺を見つめていた。
「……いや、昨日猫を見たなと思って」
あんな誰も見ない洞窟の奥にわざわざ猫の石像を置く意味は。
あそこが校長室に繋がる入口だ!