ミンディとパトリシアと別れた俺は、寮の食堂で二人分の夕食を持って自室へと向かった。
なお途中で会ったオーウェンに、そんなに食べるのかと驚かれたが、成長期だと言って誤魔化した。
そして自室でアレッタに夕食を差し出しながら提案をする。
「アレッタ、さっそくだけど協力しないか?」
「協力だと?」
協力しないなら夕食をあげない、などとケチなことを言うつもりはないので、アレッタに夕食を渡してから詳細を告げる。
「実は校長室に繋がるだろう場所に気付いたんだ」
「なんだと!? じゃあオレも一緒に」
「まあ待て。アレッタには、かく乱役を頼みたいんだ」
勢いよく立ち上がったアレッタを、手を伸ばして制止する。
「かく乱役?」
「実は校長室は学校の中には無いと思ってるんだ。だから俺が学校の外に出るために警備員の目を引きつけてほしい」
「オレに捨て駒になれと言ってるのか!?」
怒りを隠せていないアレッタに、それは違うと首を振った。
「捕まる必要は無い。上手く逃げればいいんだ」
「ずいぶんと簡単に言うな」
「別に校舎内に入らなくてもいい。校庭あたりでちょっと騒いで、警備員を引き付けてから学校の外に逃げればいいんだ」
どこから入ったのかは知らないが、アレッタは学校の中に入ることが出来たのだから、同じ方法で外にも出ることが出来るはずだ。
「外に出られなかったら、またこの部屋に逃げ込んでもいい。鍵は渡しておくから。上手く外に逃げた場合は、学校内に鍵を投げ入れておいてくれ。俺が昼間に失くしたことにするから」
先程まで校舎の周りと校庭を歩き回っていたから、どこに俺の部屋の鍵が落ちていてもおかしくはないはずだ。
俺が歩き回っていたことは、ミンディとパトリシアが証言してくれる。
「ただ、もし捕まったとしても、俺に匿われてたことは内緒にしてくれよ」
「ハッ。捕まらねえから安心しな」
アレッタは鼻で笑った後、ぐっと身を乗り出した。
「……で、その校長室に繋がる場所っていうのはどこなんだよ」
「一緒に来てほしいわけじゃない。アレッタに頼みたいのは、あくまでもかく乱役だ」
「警備員を撒いた後、オレもそこに向かう。それならいいだろ」
「まあ、それなら。ただし警備員を引き連れて来るのだけはやめてくれよ」
俺がアレッタに今夜行く予定の場所を伝えようとすると、ゴッちゃんが嫌な視線を向けてきた。
『情報をホイホイ渡すなんて、フィンレーは本当におなごに弱いのう』
(かく乱役を頼むんだから、ある程度は情報を渡さないとフェアじゃないだろ)
『本当にそれだけかのう?』
(情報をくれたお礼にってキスしてくれたら最高だけどな)
『まったく。緊張感の無いやつじゃ』
あわよくばキスをしてもらえることを願いながら、アレッタに近付いた。
そしてあくまでも俺が予想しているだけだと前置きをしてから、小声で告げる。
「俺が目を付けてる場所は、近くの森の中だ。校長室は校舎内にあるという先入観を利用して、森の中に校長室を隠してるんだ」
俺の予想を聞いたアレッタが肩をすくめた。
「それはただの想像だろ」
「想像だけど、探ってみる価値があるとは思わないか? あの森は、授業でも使用する学校所有の森なんだ」
「ふーん。ダメで元々ってわけか」
「そういうこと」
洞窟が空振りだったところで、また一から別の場所を探せばいいだけだ。マイナスにはならない。
学校を抜け出したことがバレたら、俺への監視が厳しくなるかもしれないが、そんなヘマをするつもりはない。
『フィンレーよ、フラグというものを知っておるか? 今、それが立った気がするのじゃ』
(大丈夫だって。昨日も一昨日も、寮を抜け出したことはバレなかっただろ。こっちからバラしただけでさ)
だから今夜もきっと平気だろう。今夜はかく乱役までいるのだから。
「……分かった。かく乱役を引き受けてやる」
小さく唸りながら悩んでいたアレッタが承諾の意を示した。
これで今夜は簡単に抜け出せるはずだ。