アレッタがどこでかく乱をして、俺がどこから抜け出すかを相談した後、俺たちはさっそく行動に移すことにした。
「じゃ、あとで合流するからな」
「アレッタが捕まらなかったら、だけど」
「オレを誰だと思ってるんだよ。その辺の警備員なんかに捕まらねえよ」
男子寮を抜け出した俺たちは、校庭で二手に分かれて別々の目的地を目指した。
そして俺の準備が整った頃、遠くから警備員らしき人の声が聞こえてきた。
「侵入者だー!」
アレッタが上手くやってくれたみたいだ。
アレッタが俺から離れた場所に警備員を引き付けてくれている間に、俺は森の方角にある塀とその近くにある木を交互に足場にして跳び上がり、塀を越えた。
『見事じゃのう。てっきりパトリシアちゃんの跳躍スキルを使って飛び越えるのかと思っておったのに』
「スキルの収納は手順が多いからな。この程度の高さの塀なら自力で越えた方が良い」
『スキルの不使用、大歓迎じゃ! なるべく自力で解決するのじゃ!』
塀を越えた俺は、森へ向かって走った。
森の中に入ってしまえば目撃される可能性は低いが、辿り着くまでは誰に見られるか分からないからだ。
『そういえば、アレッタちゃんに洞窟の話は教えなかったのう』
「すでに部屋に匿って食事まで提供してるんだ。かく乱役をしてもらう礼は『森』って情報だけで釣り合いが取れるだろ」
『キスしてもらえなかったしのう』
「そうなんだよ。キスしてほしかったなー!」
ゴッちゃんと会話をしながらも、走って、走って、走って。
目的の森に辿り着いた。森の中には月明かりが届いておらず、真っ暗だ。
「リリーから暗視スキルを借りて来て良かったな」
『今さらじゃが、光魔法で照らしてはダメなのか? そうすればリリーちゃんのスキルを使わずに済むじゃろう』
「光魔法なんて使ったら、居場所を教えてるようなものだろ」
いくら森の中とはいえ、さすがに光魔法は目立つ。
せっかくバレずに森の中まで来たのに、光魔法を使ったせいで見つかったのでは目も当てられない。
『こんな森の中を監視しておる者なんかおらんじゃろう』
「どうだろうな。授業でも使う森だから、どこに監視魔法が仕掛けてあるか分からない。学校内は監視魔法だらけだったらしいからな」
『仕方ないのう。リリーちゃんのスキルを使うしかあるまい』
当初の予定通り、俺はリリーの暗視スキルを使うことにした。
「スキルホルダー」
ファイルを出現させ、中からリリーの写真を取り出す。
「暗視」
リリーの写真を破りながらそう唱えると、一瞬にして森の中が木の葉の一枚までくっきりと見えるようになった。
なお破り捨てた写真は砂のように消えていった。
「すっごいな、このスキル。昼間みたいによく見える。これなら傷の一つも負わずに洞窟まで行けそうだ」
森の中をスイスイと進む。
よく見えることに加え、洞窟の場所を覚えていたため、すぐに洞窟に辿り着くことが出来た。
「洞窟の中は……うん。洞窟の中もくっきり見える」
使用場面は限られているが、暗視は決してハズレスキルではない。便利すぎて羨ましいくらいだ。
「危ない仕掛けは無いようだな……って、そんなものがあったら授業で森を使ったりはしないか」
洞窟の中を進むと、最奥に猫の石像が置かれていた。
猫っぽい形の石ではなく、明らかに猫の形になるように造られた石像だ。
石像は、大きな岩の上に行儀よく座っている。
「猫の石像……これだな」
こんなに精巧に造られた石像が誰も見ないであろう洞窟の最奥に置かれているのは、明らかにおかしい。
この先にあるのが校長室かは分からないが、何かしらは隠されていると見ていいだろう。
『で、この石像をどう使って校長室まで行くのじゃ?』
「どう使う……どう使うんだろ?」
何らかの謎を解くことで仕掛けが発動するのだとは思うが、謎らしきものは見当たらない。
文字の書かれた石板などが近くにあるかと思ったのだが、当てが外れた。
「石像のどこかに仕掛けがあると思うんだけどな」
猫の後ろに回り込んだり、尻尾の指す先を探してみたが、何も無い。
『何をしておるのじゃ。こういう場合、大抵は猫の目がスイッチになっておるじゃろう』
「そんな簡単な仕掛けのはずが…………そんな簡単な仕掛けだったみたいだ」
ゴッちゃんに言われて猫の目を押すと、カチッと音がした。
そして石像の下にあった大きな岩が横にスライドしていく。
「……地下へ続く階段だ。さあ、鬼が出るか蛇が出るか」
俺はいつ攻撃されても良いように身構えつつ、階段を下っていった。