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第7話 隠された秘密

 ライオネルの言葉によって心を深く傷つけられたレティアだったが、それでも彼女は立ち止まることを許さなかった。ただ冷たくされるだけの妻として生きることを受け入れるわけにはいかなかった。彼の「必要だった」という言葉に隠された真意を探るため、彼女は行動を起こす決意をした。


 「私はただの駒ではない。この結婚の背後にある真実を見つけ出す。」


 そう心に誓い、彼女は公爵家の過去を探ることを決めた。



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 その日から、レティアは一人で公爵家の資料室へと足を運ぶようになった。広い資料室には、歴代の記録や文書が所狭しと並んでいた。普段は使用人たちさえ近づくことがない場所であり、彼女にとっては未知の領域だった。


 「この中に、何かが隠されているはず。」


 棚を一つ一つ調べながら、彼女は目に留まる文書を取り出しては読み進めた。貴族としての教養を活かし、古い筆記体や複雑な表現を解読していく。


 最初の数日は特に何も得られなかった。だが、根気強く探し続けた結果、ある古びた帳簿を見つけた。その帳簿には、公爵家の収支記録が詳細に記されていた。しかし、ページをめくるごとに違和感が募った。


 「この取引記録…何かおかしい。」


 帳簿には、他国との貿易取引とされる項目が並んでいたが、その金額や品目には不自然な点が多かった。特に、いくつかの取引先は存在すら疑わしいような曖昧な名称で記されていた。



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 さらに調べを進めるうちに、レティアは別の帳簿を見つけた。それは、公爵家の債務に関する記録だった。彼女はその内容を読み進めるうちに衝撃を受けた。


 「莫大な借金…こんなものがあったなんて。」


 表向きは裕福で華やかに見える公爵家だったが、その実態は巨額の借金を抱えていた。さらに、それを補填するために裏で行われている不正取引の数々が浮き彫りになった。


 「これが、この結婚の理由…?」


 レティアの胸に怒りが湧き上がった。彼女の家は、財政難とはいえ名誉ある侯爵家だ。その立場を利用して、公爵家が自分たちの危機を乗り越えようとしていたことが明らかになった。



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 さらに調査を進める中で、彼女は驚くべき事実を発見した。公爵家が関わっている不正取引には、政界や他国の勢力まで絡んでいる形跡があった。表向きの貴族社会の裏で行われている闇取引。それを補佐するために、彼女がこの家に嫁がされたのだと悟った。


 「私はこの家の盾にされていたのね…。」


 レティアは拳を握りしめた。公爵家の名を守るために、彼女はその存在を利用されていたのだ。政略結婚の意味がようやく理解できたものの、それは彼女にとって屈辱以外の何ものでもなかった。



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 その夜、レティアは自室で一人、発見した帳簿や記録を広げて整理していた。心の中には、さまざまな感情が渦巻いていた。


 「私はただの飾りではない。公爵家の都合で生きるつもりもない。」


 彼女の心には、復讐の念が芽生え始めていた。自分を道具のように扱った夫やその家族に対し、一矢報いるための準備を始める決意を固めたのだ。


 その時、廊下の向こうから足音が聞こえた。部屋の扉の向こう側で立ち止まる気配がしたが、結局誰も中に入ってくることはなかった。


 「監視されている…?」


 その可能性に気づいたレティアは、帳簿を隠すべく素早く行動した。誰が味方で誰が敵か分からない状況の中、彼女は慎重に事を進める必要があった。



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 翌日、レティアは執事を呼び出し、これまで以上に用心深く会話を交わした。


 「公爵家の財政状況について、何か知っていることがありますか?」


 執事は一瞬戸惑いながらも、小さな声で答えた。


 「…私は長年仕えてきましたが、詳細については何も申し上げられません。ただ、奥様がどのようなお考えで動かれるにせよ、ご自身の安全を第一にお考えください。」


 その言葉には、彼なりの忠告が込められていた。レティアはその意図を察し、深く頷いた。


 「ありがとう。これ以上は聞きません。ただ、私が必要な時には力を貸していただけますか?」


 執事は静かに頷き、その場を去った。



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 レティアは自分の手で真実を暴くために動き始めた。冷たい結婚生活の裏で繰り広げられる公爵家の闇。それに立ち向かう決意をした彼女の心には、以前にはなかった力強い意志が宿っていた。


 「私を見下した夫とその一族に、必ず報いを受けさせる。」


 その小さな呟きは、暗い夜の中で静かに響いた。レティアの新たな戦いが、ここから始まるのだった。



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